★★★【概念空間論】第4章 未概念法

 

本章では、未概念法という方法論について概説する。未概念法とは、未概念という特殊な概念群を用いて新しい概念を連続的に創造する方法である。この方法は、前章で描かれた遷移度/明瞭度の機構と深く関係するものである。未概念法によって、遷移度/明瞭度は高められることになり、この帰結として認識の変容を引き起こすことができるのである。またこの方法では、概念的思考による接近が可能か有効であるような問題系について、その問題が解決に至る可能性を原理的に可能な限り際限なく高めていくことができる。以下では、未概念法の原理と方法、実践的な手順について順番に示すことにしたい。

 

§1.原理と方法

未概念法の原理および方法として、以下の3つの考え方が重要である。

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1.未概念(化)

2.枠組み(化)

3.遷移度/明瞭度の機構

補足:U領域について

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■1.未概念

未概念とは、つねに過渡的な生成状態にあるものと把握される変容性の概念のことである。未概念は、次の二つの性質を備えている。

 

①未然性

②未知性

 

第一の性質は、未然性である。未然性とは、未だ概念の変遷や製作のプロセスが終わっていない状態を意味し、また新しい未知の概念の原料や素材となる性質を指す。第二の性質は、未知性である。未知性とは、認識主体にとってまだ獲得・形成されておらず、新しい可能性を持つことを意味する。この両性質は、補完的な関係にあり、また認識領域における既知/未知の境界線と深く関わるものである。そのために、この両性質は、未概念において統合された形で理解される必要がある。未然性と未知性の組み合わせの射程は、時間軸上でいえば、過去・現在・未来のすべての範囲に及ぶ。要するに、未概念とは、過渡的な生成状態にある概念の変容過程全体を包括的に表現するための用語なのである。未概念法では、あらゆる概念を、つねに過渡的な生成状態にある変容性のものと見做す。未概念法では、あらゆる概念を未概念化し、決して(完全には)安定化や固定視せずに思考するのである。

 未概念化とは、概念をつねに過渡的な生成状態にある変容性のものと見做すことである。未概念という考え方が正確に理解できたとき、すべての概念を目的に応じて未概念化することができる。未概念化は、この体系全体においていわば起爆ボタン(溶解のスイッチ)のようなもので、認識領域に分布する無限に多様な概念の集合は、この未概念化という操作によって一挙に溶解してしまう。

 

 

■未概念のイメージ

未概念法は、原理的にみて、概念的な思考の方法としては最も強力な方法論だといえる。しかし実践的には、率直に言って、極めて高度な思考力が必要であるため、使いこなすことが非常に難しい方法論でもある。新しい概念を連続的に創造したうえで、複数の枠組みを設計し、これらを十全に把握しながらこの系列の中で既知の枠組みから未知の枠組みへ連続的に変遷(既知の枠組みα→未知の枠組みβ)できなければならない。ただし、新しい概念を創り出す困難さについては、ある程度取り除く方法がない訳ではない。それは未概念を次のように定式化してしまうことである。

 

未概念=文字/記号+◯◯

【α量、β性、γ化、δ系,ε度,ζ法,η的,θ層,ι分類,κ構造,λ順序,μ関係,ν領域,ξ部分,ο過程,π前提,ρ分類,σ条件,τ状況,υ接続,φ配分,χ分割…】

 

これは未概念という変容性の概念の特性を定式化した記述方法である。この方法は、限定的ではあるが未概念の取り扱いの練習になるだろう。この方式では、あらゆる概念が、他の概念と自由に接続しうる形で未概念化され、変数としての文字部分に、特定の別の概念を自由に当て嵌めることで、新しい概念を作成することができる。この方法は、問題解決のプロセスにおいて、部分的に威力を発揮する局所的な概念を連続的に作成するうえで効果的である。

 未概念法はもともと、社会的なレベルであれ個人的レベルであれ、それを解決することに深い意義が認められるような困難な問題にアプローチするために開発された方法論である。逆に言えば、公共的にみて意義の乏しい概念を氾濫させるためのものではないため、この方法により作られた概念については慎重に扱ってほしい。

 

■2.枠組み(化)

枠組みとは、未概念法において、諸概念のグループから形成され、思考プロセスにおいて運用される体制化された構造やまとまりを意味する。既に幾つかの節で、枠組みの考え方を提示している参照してほしい。第1章・概念の機能論において示したように、概念は地理学的機能をもち、諸概念のグループは相互に接続することで枠組みを形成する。枠組みの形成には信念や思い込みが伴い、このとき諸概念の関係性はある程度安定化・固定化されることになる。前項の未概念化と対照化するため、これを枠組み化と呼ぶことにしよう。

 未概念法は、実践的なレベルでは、複数の枠組みを形成し、この系列のなかで既知の枠組みから未知の枠組みへと遷移しつつ、思考を進めていく。形式的には、次のように表現できるだろう。

複数の枠組みのグループ:【枠組みa、枠組みb、枠組みc、枠組みd、枠組みe…】

複数枠組み間の遷移:枠組みα→枠組みβ

枠組みは、諸概念のグループから構成されるために、抽象性の次元がある。抽象的な枠組みは、多様なより具体的な概念や事象、枠組みを包摂しうる。この枠組みの範疇には、種類として、抽象性において最も高度な構築物としての思考モデルやパラダイムもまた含まれる。つまり、未概念法では、(原理的には)このように無数の思考モデルの集合やパラダイムの集合を通じて思考するのである。未概念法は、特定のパラダイムに囚われることがないために、極めて困難な問題にアプローチするために、極めて強力な方法論として活用することができる。

 

■未概念と思考の枠組み化(思考モデル)

未概念と枠組みの間には、対照性と反転性という二つの関係性がある。これらの関係性は、未概念法における2種類の相互的な思考や概念の運動の方向性を表している。未概念とは、つねに過渡的な生成状態にあるものと把握される変容性の概念であり、枠組みとは、複数の概念の組み合わせによって形成されるものであった。対照性とは、一方では概念が未概念化の手順によって溶解し、もう一方では枠組み化によって半結晶化するという正反対の状態や運動のことである。この関係性については、次のように幾つかの属性・作用グループを付与すると理解しやすいだろう。

未概念:変容性、流動性、発散性、断片的…

枠組み:安定性、固定性、収束的、体系化…

これらのグループは、未概念と枠組みに固定的に配分されるものではない。未概念と枠組みは、相互的な反転性をもつのである。未概念は、未知の概念の創造の原料として使用されるが、同時に新しい枠組みの構築へと向かう。そのため、あらゆる瞬間において、安定化・固定化・収束化…という運動が起こる。枠組みは、複数の概念同士の結合によって構築されるが、同時にそのすべての構成要素はつねに未概念化される。そのため、全体またはあらゆる部分に渡って、変容性、流動性、発散性…という運動が起こる。

未概念法のプロセスでは、諸概念のグループが用いられる。

【概念a、概念b、概念c…/概念x、概念y、概念z…】

これらの概念は、すべて未概念と見做され、新たな枠組みの構築に寄与し、新しい枠組みの構成要素は、すべて溶解し未概念と化す。未概念法において、あらゆる概念は、対照的かつ相互反転的な絶えざる運動――生成と消滅、溶解と析出、分裂と統合、解体と形成、破壊と創造…――を引き起こすのである。

 

■遷移度/明瞭度の機構

未概念法の原理の中核にあるのは、遷移度/明瞭度の機構である。遷移度/明瞭度の機構は、三本の線分で構成されており、これらは相互に緩やかに対応する接続関係にある。すなわち、第一の線分である概念量の変化は、第二の線分である遷移度/明瞭度という指標に翻訳されつつ影響を与え、遷移度/明瞭度の変化は、第一の線分に再帰的に新しい効果をもたらす。また第二の線分である遷移度/明瞭度の変化は、第三の線分である認識の変容あるいは問題解決プロセスに繋がり、認識の変容あるいは問題解決プロセスの変遷は、第二の線分を再帰的に揺り動かす。ところが、遷移度/明瞭度の機構とは、まさに歯車機構であって、第一の線分である概念量の変化が起こらなければ動作が錆び付いたように重くなるのである。ここで不可欠な動力源として、未概念法が重要な役割を演ずる。未概念法は、大量の未概念をU領域に散布し、新しい概念を連続的に創造することで、第一の線分である概念量を爆発的に増大させ、遷移度/明瞭度の機構を駆動するのである。このようにして、未概念法によってこの歯車機構の稼働効率は最大限まで引き上げられることになる。

未概念法は、地理学的には、既知/未知の境界線を書き換え、無数の概念が奔流する遷移運動を引き起こす。光学的には、無数の概念が放つ莫大な光量によって無際限に認識領域を照射し、暗がりを払う。この帰結として、幾度となく認識の変容が起こり、問題解決のプロセスが進んでいくことになる。

ただし、未概念法についての理解として、次の点は重要である。未概念法は、極めて強力な問題解決の方法論ではあるが、問題の答え(解)を直接的に導出すること――それが可能なケースもあるが――自体を目標とするのではなく、遷移度/明瞭度の機構を作動させ、新しい認識の変容を幾度となく引き起こすことを重視するものである。問題が解決に至るか、あるいはそれに限りなく近付いていくのは、飽くまでこの帰結として、副次的な効果が及ぶことによってである。

 

 

これまでの記述により、未概念法の原理について大まかに示すことができた。§2では、未概念法の実践的な手順を取り上げるが、ここで前章までの内容と未概念法の原理の関係について、改めて整理しておきたい。この整理の目的は、次に登場する未概念法の最初の手順――「未概念の散布」という手続き――について、理解を深めることである。以下の記述では、認識領域RにおけるK領域/U領域の構造・性質、およびそこに分布する諸概念の性質が確認でき、またU領域が問題解決においてどのような位置を占め、そこに未概念を散布することが認識領域にどのような作用をもたらすのかが明確になるだろう。

 

①認識領域Rは、K領域/U領域に区分される。K領域は既知の領域を、U領域は未知の領域を意味する。

②認識領域には、(無限に多様な)概念の集合が分布している。特定の認識主体にとって、既知の概念のグループ(【概念a、概念b、概念c…】)あるいはK領域に属し、未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)はU領域に属している。

③認識領域R上において、諸概念のグループは、概念の地理学的機能により局所的に分布している。この空間的な局在性により、思考可能/不可能な領域が画定する。

④認識領域R上において、K領域は、既知の概念のグループにより思考可能なエリアであるが、U領域は、U領域に分布する未知の概念のグループを、認識主体が獲得しなければ、十全に思考することが不可能な領域である。

⑤認識領域R上において、既知の概念のグループ(【概念a、概念b、概念c…】)は問題解決プロセスにおいて運用可能だが、未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)はU領域に属し、まだ獲得されていないために問題解決のために使用することはできない。

問題の解決原理により、どのような問題であれ、適切な諸概念のグループがなければ、解決することはできない。問題を解決するために必要なのは、認識領域R上において、U領域に属する未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)である。反対に、既知の概念のグループ(【概念a、概念b、概念c…】)だけでは、問題を解決することができない。なぜなら、図式的には、既知の概念のグループが、当該の問題を解決するために必要かつ十分な諸概念のグループであるならば、既に問題が解決できているはずだからである。裏返せば、U領域に属する未知の概念のグループを獲得しない限り、概念の不足状態が解消されないために問題は解決に至らない。

⑦U領域とは、未知の領域である。U領域は、原初的にはすべてを含む領域であったと言える。認識表現モデルでは、図式的に、K領域に含まれるものはすべてU領域から遷移するからである。問題解決に必要な適切な概念を含む、無限に多様な概念の集合は、U領域から招来する。

U領域は、しかし未知の領域であるがゆえに、直接には認識ができない。未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)は、U領域に属するがゆえに直接には把握することができない。しかし、U領域はすべてが思考・認識不可能である訳ではなく、既知/未知の境界線を超えることで、探索可能な領域がある。既知の概念のグループ(【概念a、概念b、概念c…】)の周縁には、既知/未知の境界線が重なっており、U領域について局所的に思考することができるのである。

⑨U領域は、つまり完全に思考・認識不可能なのではなく、既知/未知の境界線を超えた近接的な範囲には、思考や認識可能な部分領域を含んでいる。したがって、重要なことは、U領域における思考不可能に思われる部分領域を、思考可能な領域に塗り替え、変質させることである。原理的にみて、それが可能なのは未然性と未知性の二つの性質を併せ持つ概念であり、ここで未概念が要請される。

⑩未概念とは、未然性と未知性の性質をもつ変容性の概念である。未概念は、つねに過渡的な生成状態にある変容性の概念であるからこそ、認識主体にとっての既知/未知の境界線を溶かす。そして、未概念から新しい概念を創造することによって、思考・認識可能な領域を拡大することができるのである。また未概念から新しい概念を創造することにより、概念量が変遷し、遷移度/明瞭度の機構を駆動することができるようになる。

 

 

§2.未概念法の手順と実践

未概念法では、大まかに言うと、実践的に次の4つの手順を踏んで思考プロセスを進めていく。

 

①未概念の散布

②概念の創造

③枠組みの構築

④認識の変容

 

①未概念群の散布

第一の手順は、未概念の散布である。これはU領域に未概念を散布することを意味する。未概念とは、つねに過渡的な生成状態にある変容性であるために、既知/未知の境界線を溶かすことができる。これにより、U領域は局所的に概念的形態を与えられ、K領域に塗り替えられる。U領域は、完全な未知の領域あるいは思考不可能な領域ではなくなるのである。またU領域に属する未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)は、未概念から作成されるために、この手続きは第二の手順「概念の創造」のための仕掛けとなる。

 

②概念の創造

第二の手順は、概念の創造である。この手順では、U領域(未知の領域)に属する、未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)を、U領域に散布された未概念をもとに創造する。この手順は、新しい概念の創造の過程であり、遷移度/明瞭度の機構における、第一の線分である概念量の変遷にあたる。また地理学的/光学的な観点から見て、これはU領域に属する未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)をK領域へと移行させ、認識領域を部分的に照射する過程でもある。

 

③枠組みの構築

第三の手順は、枠組みの構築である。第一の手順と第二の手順により、未概念から新しい概念が創造された。概念量が増加すると、これらの概念は特定の接続関係を結び、新しい枠組みが形成されていく。

【枠組みa、枠組みb、枠組みc、枠組みd、枠組みe…】

この手順は、地理学的/光学的な観点からみて、遷移度/明瞭度が変化するプロセスでもある。U領域に属する未知の概念のグループ(【概念x、概念y、概念z…】)は、K領域に移行すると、様々な概念と相互的に新しい接続関係を結び、未知の枠組み(【枠組みX、枠組みY、枠組みZ…】)が形成されていく。地理学的には、この過程は、U領域(未知の領域)に属する、未知の枠組み(【枠組みX、枠組みY、枠組みZ…】)がK領域(既知の領域)に移行し、K領域あるいはK領域に属する既知の諸概念のグループ(【概念a、概念b、概念c…】)あるいは既知の枠組み(【枠組みA、枠組みB、枠組みC…】)との新しい関係性を結ぶプロセスである。光学的には、この過程は、U領域に新しく形成された未知の枠組みにより光が照射されるプロセスである。この過程は、遷移度/明瞭度の機構の第二の線分の変遷に当たる。

 

④認識の変容

第四の手順は、認識の変容である。第三の手順では、複数の枠組みのグループが構築された。

【枠組みa、枠組みb、枠組みc、枠組みd、枠組みe…】

この枠組みの系列において、既知の枠組みと未知の枠組みの対立の構図が生まれる。第四の手順では、この枠組みの系列のなかで、既知の枠組みから未知の枠組みへと次々と変遷していくなかで、認識の変容を引き起こしていく。この過程は、遷移度/明瞭度の機構の第三の線分の変遷に該当すると考えられる。複数の枠組みの系列における、既知の枠組みから未知の枠組みへの変遷は、次のように形式的に表現される。

既知の枠組みα→未知の枠組みβ

 

 

この手順①~④を繰り返すことで、未概念法による問題解決プロセスが進んでいく。ただし、これは飽くまで未概念法の実践方法を敷衍するため便宜的に区分した時間的な手順であり、必ずしもこの順序①~④で思考する訳ではなく、これらの手順は実際には殆ど同時並行で進めていくことになる。

 

■複数の枠組み間の遷移について

最後に、改めて複数の枠組み間の遷移の問題について確認しておこう。これまでの章で述べてきた通り、複数枠組み間の遷移は、(自覚性を除けば)懐疑/創造の二極の協働による思考、二種類の思考の方向性が必要になる。ここでは懐疑的思考と創造的思考の関係をまとめておく。

①懐疑:K領域の枠組みの解体

 懐疑的な思考とは、地理学的/光学的にK領域をU領域に覆す思考である。懐疑的思考は、K領域に回帰的に関わるが、しかしK領域のみに留まり続ける思考ではない。思い込みを疑うことは、既知の中に未知性を見出すことであり、地理的学に、既存の地盤を揺るがし既知の要素――認識、概念、観点など――をU領域へ逆遷移することである。これは既知の領域に遷移した諸要素のU領域への還流である。

懐疑的思考によって、既知の要素からなる枠組みは解体され、創造的思考との相互的な運動によってある一定の閾値を超えたとき、古い枠組みから新しい枠組みへの移行が起こる。②創造:U領域の枠組みの構築

 創造的な思考とは、地理学的/光学的にU領域をK領域に覆す思考である。創造的思考は、U領域に逸脱的に関わるが、しかしU領域のみに留まり続ける思考ではない。アイディアを生み出すことは、地理学的に新しい土地を調査し、未知の要素――認識、概念、観点など――をK領域に遷移することであり、光の照射により像を浮かび上がらせることなのである。創造的思考によって、未知の要素からなる枠組みが構築され、懐疑的思考との相互的な運動によって、ある一定の閾値を超えたとき、古い枠組みから新しい枠組みへの移行が起こる。

 懐疑/創造的思考は、K領域/U領域の間で絶えざる運動を引き起こすことで、枠組み間の移行に伴う認識の変容を引き起こす。恐らくこの過程では、幾度となく既知/未知の境界線と明/暗の勾配・輪郭線が超えられることによって、諸要素が相互に接続し合う無数の距離と色彩の曲線が引かれ、認識を新しい景色へと導く地図が描かれることになるだろう。

 

あとがき

世界は一冊の書物へと至りつく――ステファヌ・マラルメ

 

本書の執筆は、当初含める予定だった内容を幾つも手放すことでようやく終えることができた。具体的な項目として、「概念とは何か」という問題の哲学的な解明、≪bias≫論の詳細、明瞭度のより詳しい意味規定、概念関係式の説明、参照平面や未概念法の事例集などがある。このほかにも幾つもの項目の執筆を断念しなければならなかった。最大の理由は、筆者の私的な生活上の問題にある。率直に言うと、執筆作業は身体的に負担が大きく、身体が壊れていき、すべてを書き終えるまで体力が持たず力尽きてしまった。

不器用・不格好・手際が悪く歪ながらも本稿を書き終えるまでの過程は、しかし筆者にとって新しい芽が育ち始めた時期でもあった/とも重なった。概念の研究は大方終わりを迎え、次なる問題に関心を寄せるようになった。既に新しい体系――転覆地図論の研究に取り掛かり取り組み始めている。この体系は、

概念ではなく、テキスタイル(認識の布地)という概念を

同様に認識の変化に関するものだが、恐らく曲線を扱うものになると思われる。こちらの研究も遅々として進まないが、本書からは零れ落ちてしまった内容を、いつか次作に含め埋められたらとも思う。

 書物のイデアは、<書くこと>によって至ることができる沈黙のなかにある。歴史の中で、このイデアは精神の響き、断片、倫理を回収しながら未来に向かって永遠に後退していく。この媒体は、最期のときまで精神に残されたものを引き取り、名を与え、静かに包摂してくれるがゆえに、書物はこの世に生を受ける訳だ。書くことは迂遠な砕かれた行為であり、書物は紐解かれなければ伝達しえないという固有の悲しみを纏っている。この悲しみのゆえに、書物は厚みをもつことになるのだろう。それゆえに書物はまた、絵画や音楽のような形式とは異なり、弁明と切り離すことができないのだろう。本書は悲しみの書ではないが、それでもやはり書物の形式からも運命からも逃れられる訳ではない。そのため、いずれ可能であれば加筆・改訂することを心に決め、これを弁明として筆を置くことにしたい。

 本書の体系は、汎用的な思考の枠組みとして、できる限り公共的に役立てられることを目指したものである。しかし、これは筆者の個人的な目標に過ぎないもので、振り返れば、本書はやはり極めて私的な性格の色濃い不完全な書物だと思う。ともあれ、この体系は、何ものにも囚われない自由な思考の枠組みとして構想された。もし本書が思考の手引きとして読まれ、読者にとって永い使用に耐えるものになるとすれば望外の喜びである。

 

はじめに:世界は一冊の書物へと至りつく――ステファヌ・マラルメ

序章

第1章:

―第1節:

―第2節:

―第3節:モナドは、固有の観点から宇宙を眺める鏡である。――――G.W.ライプニッツ

第2章:We cannot solve our problems with the same thinking we used when we created them.

(いかなる問題であれ、それを生み出したときと同じ考え方のままでは、その問題を解決することはできない)
(※いかなる問題も、それが発生したのと同じ次元で解決することはできない。)

――アルベルト・アインシュタイン

第3章:

―第1節:(K領域/U領域)

―第2節:(遷移度/明瞭度)…あの日、わたしは、シルヴァプラーナの湖畔の森を散歩していた。ズルライ村からほど遠からぬところにある、ピラミッド型のそそり立つ巨大な岩のほとりにわたしは立ちどまった。そのときこの思想がわたしに到り着いたのだ。…稲妻のように、ひとつの思想がひらめく、必然の力をもって、ためらいのない形式で。――――『この人を見よ』フリードリヒ・ニーチェ著

明瞭度――「もしなにかよく考える必要のあることなら、暗闇のなかで考えたほうがいいでしょう」と彼は灯心に火をつけるのをよして、言った。『盗まれた手紙』エドガー・アラン・ポー

―第3節:(思い込み)一生に一度は、すべてのことを疑うべきである――ルネ・デカルト『哲学原理』

―第3節:(パラダイム)原子を砕くより、偏見を破壊することの方が困難である――アルバート・アインシュタイン

第4章:哲学とは概念の創造である。      ―――ジル・ドゥルーズ

あとがき:書くことは祈りの形式である――フランツ・カフカ

 

 

 

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