第2章.概念の集合と参照平面
We cannot solve our problems with the same thinking we used when we created them.
(いかなる問題であれ、それを生み出したときと同じ考え方のままでは、その問題を解決することはできない)
■概念の集合、あるいは概念空間
本書では、概念の集合という用語を、諸々の概念の集まり、概念のグループという意味で用いる。次のような諸概念のグループがあるとき、これを概念の集合と呼ぶ。
【概念α、概念β、概念γ、概念δ、概念θ…】
ただし、本書において「集合」という用語は、数学的な概念として用いられる訳ではないので注意してほしい。数学的な取り扱いをすることも、集合論と同種の議論をすることは一切ない。
「概念の集合」と「概念空間」という表現は、多くの場合どちらも殆ど同じ意味で用いられる。概念空間とは、概念の集合のことであり、概念の集合を概念空間と呼ぶこともある。概念空間という表現は、マクロ的な視点から、概念のグループを統一的に扱う場合や、歴史的な変遷や全体としてのダイナミズムを考える場合に使用されることが多い。概念の集合という表現は、ミクロ的な視点から、個々の概念やその個別的な機能に焦点を当てる場合に使用されることが多い。
ここで概念の集合の構成要素としての「ひとつの概念」について触れておこう。本書では、諸般の理由から、概念そのものの本質や「概念とは何か」という問題について、哲学的に深い解明に取り組むことができない。しかし、テーマとして「概念の集合」を扱う以上、そもそも概念とは何かについて何らかの考え方を提示しておくべきだろう。ここでは「概念とは、認識の単位的パターンである」という考え方を提示しておく。概念についての解釈方法は幾通りも考えられるが、これは非常に明快な考え方である。概念を3つの観点――内的構造、外的構造、機能/運用方法――から考えてみよう。事例として「林檎」という概念を扱うことにする。
●内的構造――「林檎」という一つの概念はいかなる性質や特徴を持つだろうか。この概念を分解してみると、次のような多様な認識情報が含まれることが分かる。
名辞あるいは記号(りんご)、音価(ringo)、視覚像(赤い、丸い)、触覚(固い、滑らかな手触り)、味覚(甘酸っぱい)、「果物」という概念(上位の範疇‐カテゴリー)など…。
そして林檎という「一つの概念」を獲得・形成するためには、多面的な認識情報の反復および結合による習得が必要になると考えられる。
名辞「りんご」の聴覚情報および音価の発声、モーダル的な再認、指示機能的な志向性、「この林檎を食べる」「林檎がn個ある」という名指しや数え上げ、言語内における語彙「林檎」の意味論的/統語論的運用、視覚情報のパターン認識など…。
※なお詳細は省略するが、第3章で扱う認識表現モデルを用いれば、こうした「ひとつの概念」の形成過程も記述/表現可能である。この場合、概念を形成する多様な認識情報がU領域からK領域へと遷移し、相互に結び付くことで固有の概念が成立すると考えることになる。
●外的構造――今度は別の観点から、「ひとつの概念」を定義することを考えてみよう。すると【概念a】の定義では、基本的に他の概念【概念b、概念c、概念d、概念e…】を召喚せねばならないことに気付くだろう。つまり、概念は他の概念と関係を結ぶものであり、単独で呼び出すことは難しいことが分かる。またこのことから、特定の概念を獲得・形成することは、「ひとつの概念」を獲得・形成あるいは遷移することだという理解は、あまり正確とは言い難いことに思い至るだろう。あらゆる概念は、他なる概念と見えない糸でつながっているのである。本書において概念空間論を「概念の集合」を扱う体系として提示しているのは、この辺りにも理由がある。
●運用方法――次に、このような「概念」は、どのような機能をもち、どのように運用されるだろうか。「林檎」という概念は、我々がそれと理解するあらゆる同一・類似の個物を含む外延をもつ。あらゆる思考や認識のプロセスにおいて、完全に異なるとは言えない、安定的・固定的な形で運用をされる。
このように概念とは、多様な認識情報を包摂しつつ、それ自体が複雑な内的/外的構造を備えた、体制化された単位的パターンと言えるだろう。概念とは、認識の単位的なパターンとして機能するものなのである。
このような考察はいくらでも続けることができる。さらに関心を広げ、哲学的に概念同士の関係性の本質は何かと考えたり、概念の神経科学的な基盤について問い、ひとつの「概念」は脳内における特定のニューロン群の発火状態などと対応する形で存在するのかと仮説を立て検討するのも面白いだろう。しかし、このような主題は興味深いものではあるが、ここで打ち切ることにしたい。
■概念の集合に関する幾つかの分類方法
先ほど述べた概念の集合(概念のグループ)について、次の二つの切り口から分類してみよう。
1.無限/有限
第一の切り口は、無限/有限である。無限に多様な概念の集合とは、定義上、存在しうる限り、考えうる限りあらゆる概念を含むグループである。無限に多様な概念の集合Gと記号を付しておくと分かりやすいと思われる。本書では、無限に多様な概念の集合Gは、既知のグループと未知のグループに分類して考えることが多い。有限の概念の集合とは、文字通り、無限に多くはない複数の概念からなるグループである。また特殊なケースだが、いかなる概念も含まない概念の集合を考えるとき、これを白紙状態(タブラ・ラサ)と呼ぶことにしよう。以下は、その表記方法/事例である。
無限【概念α、概念β、概念γ、概念δ、概念θ…】
有限【概念α、概念β、概念γ】
白紙状態/タブラ・ラサ【 】
2.抽象的/具体的
第二の切り口は、抽象/具体である。抽象的な概念の集合とは、一般化された概念のみを含み、具体的な概念を全く含まないモデル化された諸概念のグループである。具体的な概念の集合とは、具体的な概念を要素に含む諸概念のグループである。以下は、その表記方法/事例である。
抽象【概念a、概念b、概念c、概念d、概念e】
具体【点、線、面、立体】【神、天使、人間、動物】
■具体的な概念の集合(概念空間)の事例:
以下は、具体的な概念の集合の事例である。
1.日常的な概念の集合
日常のなかで使用する概念の集合として、このようなものが考えられる。
【鉛筆、用紙、定規、コンパス…】
【生活、時間、睡眠、食事、運動、予定、仕事、休暇…】
2.分野的(学問的)な概念の集合
特定の(学問)分野で使用されるような概念群を集めたグループ。哲学/宗教学/数学/天文学/物理学/神経科学/認知科学/美術史など様々な分野の概念の集合が考えられる。
哲学史:【イデア、形相/質料、コギト、実体、モナド…】
数学 :【項、文字、係数、符号、定数、変数、方程式、等号、直線、曲線、グラフ、傾き…】
物理学:【時間、位置、速度、距離、加速度、力、質量、エネルギー…】
解剖学:【系、器官、組織、分子、細胞…】
生物学:【細胞、核、小胞体、リボソーム、ゴルジ体、リソソーム、ミトコンドリア、中心体、液胞…】
神経科学:【ニューロン、グリア細胞、シナプス、受容体、神経伝達物質、シナプス可塑性、活動電位…】
経済学:【需要、供給、市場、価格、均衡、景気、GDP、インフレ、デフレ…】
同様に概念空間についても典型的な事例を挙げてみよう。
3.人類の概念空間
歴史のプロセスの中で人類が生み出してきたあらゆる概念が浮遊する空間。 人類の概念空間の内では、無数の概念が生成と消滅を繰り返している。 例えば、ある時代まで支配的な地位に保っていた概念でも、他のより洗練された新しい概念が現れることで淘汰されることがある。
4.私的な概念空間
個人レベルで保有され、特定の人称や個体に帰属するような概念のグループ。A氏/B氏/C氏…という人々がいるとき、各々の私的な概念空間の内実は、かりに同じ環境で育ち同じ言語を用いていたとしてもまったく異なるものである。こうした私的な概念空間は、学習環境/価値観/共同体/メディアなど、多様な要因から影響を受けつつ形成されていく。 どんな人であっても、この私的な概念空間に含まれる概念群を用いて思考している。
概念空間論は、概念の集合を扱う体系的な枠組みである。ここでは概念の集合が、各章においてどのように扱われるかを示したい。
第1章 §1において、
第1章 §2の概念の機能論では、概念の地理学的機能により、概念の集合は相互的な接続関係を結び、枠組みを形成することが示される。
第2章 §2(本章次節)では、参照平面という概念の機能により、概念の集合は自由に分類・グループ化される対象となる。
第3章では、認識表現モデルの認識領域R(K領域/U領域)上において、概念の集合は分布・照度の
第4章では、未概念法という方法論によって
新しい概念が連続的に創造され、
(無限に多様な)概念の集合のうち、未知の諸概念のグループが
U領域に供給される過程が示される。
【枠組みa、枠組みb、枠組みc、枠組みd、枠組みe…】
枠組みα→枠組みβ
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■【参照平面】■■■
ここでは、参照平面という概念について、詳細に解説していく。参照平面は、概念空間論の枠組みにおいて、最も主要な役割を果たす概念である。一言でいうと、参照平面は、概念の集合を自由自在に扱うための設計システムになっている。以下では、参照平面の定義、基本コンセプト、主要機能、設定項目、使用法について順番に紹介することにしたい。

◆定義◆参照平面の4つの機能
参照平面とは、概念の集合から構成された平面のことである。
参照平面には、主要な三種類の機能がある。以下に述べる機能の並びの順番は、そのままこの概念の実践的な使用手順にもなっていると考えてほしい。この中には後述の設定項目と重複する内容もあるが、この概念の特徴をよく表すため取り上げておく。
◆機能1.概念の集合の整理・分類(グルーピング)
第一の機能は、分類・グループ化である。参照平面は、(無限に多様な)概念の集合を自由に分類・グループ化できる。参照平面を構成する要素は無限でも有限でも構わず、目的に応じて使い分ける。参照平面は、基本的には概念の集合を構成要素とするが、認識の要素――考え方・観点・枠組みなど――を構成要素とすることもある。
◆機能2.既知/未知の配分
第二の機能は、既知/未知の区分・配分である。参照平面は、概念の集合を既知のグループと未知のグループに分類することができる。後の設定項目3のように、参照平面に特定の認識水準・主体を設定するケースでは、それに応じて既知/未知の区分は固有の影響を受けることになる。なお、この機能は、参照平面がもともと内包する機能と捉えてもいいし、次章で述べるK領域/U領域という対概念と連携して生じるものと解釈してもいい。
◆機能3.表示と共有
第三の機能は、表示と共有である。この機能は、参照平面の定義に含まれる「平面」という表現に基づくものである。この「平面」の定義は、参照平面の構成要素としての概念の集合を他者に向けて「開示」するための仕掛けであり、この概念の公共性を担保する重要なものになっている。参照平面は、概念の集合を(認識上において)表示し、また他者と共有することができる。この点について、さらに
参照平面とは、概念の集合そのものではなく、概念の集合から構成される「平面」であった。この定義によって、概念の集合は、人間の認識上において明確な形をとって現れざるを得なくなる。すなわち、この定義を通じて、参照平面は、正しく理解された場合、設計者やその対話相手たちの認識空間内において、いわば浮遊するようにイメージされることになるのである。参照平面は、設計者個人が単独で用いることもできる。しかし、特に対話や議論のシーンにおいては、参照平面の構成要素である概念の集合は、他者の認識において「平面」上に開示されるために、他者と共有可能なものになるのである。この定義の最大の利点は、参照平面が隠れた暗黙的な場ではなくなることにある。参照平面における概念の集合、あるいは観点・考え方・枠組みは、他者に向けて(認識上において)開示されるために、対話や議論の場において、実際に「視覚的に表示」せずとも、共有可能である。要するに、参照平面は、思考や問題解決プロセスにおける高度な共通言語として、あるいはコミュ二ケーション・ツールとして使用できるのである。もちろん実際に、プレゼンテーションで使用されるスライド資料のように、参照平面を視覚的に表示することが良い手段でないということは決してない。参加者にとってはより分かりやすいため、それは望ましい方法である。
■参照平面の設定項目
参照平面は、次のような複数の設定項目があり、目的に応じ自由に決定する。
1.抽象的/具体的な使用・解釈パターン
第一の設定項目は、抽象的モデル/具体的モデルのどちらとして使用するかである。
抽象的なモデルとして使用する場合、参照平面を抽象的な概念のグループから構成する。
【概念α、概念β、概念γ、概念δ、概念ε…】
具体的なモデルとして使用する場合、参照平面を具体的な概念のグループから構成する。
【概念a、概念b、概念c、概念d、概念e…】
2.認識水準・認識主体
第二の設定項目は、参照平面を具体的なモデルとして使用する場合に、必要であれば特定の認識水準・認識主体を決定することである。
①認識の水準とは、社会/集団/個人/一般/学問などの認識のレベルや範囲である。ただし、これは参照平面を構成する概念の集合と対応するものになる。
②認識主体とは、特定の人称的個体、(人称的とは限らないが)認識様式・能力を何らかの主体・もの、問題解決主体・プレーヤーなどのことである。
3.個数・構成枚数(量)
第3の設定項目は、個数(枚数)である。参照平面の構成枚数には制限がなく、幾つ並べてもよい。無限または有限の概念の集合を考えるとき、これらをすべて一つの参照平面に含めることもできるが、複数枚の参照平面に分散することもできる。参照平面は極めて柔軟に構成可能であり、統合/分離の操作を自由に施すことができる。大量の概念を無造作にグループ化する場合、これらの概念の機能や性質は、類似的なものではなく、相互に全く異なるものも現れるだろう。このようなケースでは、類似性の高い概念をまとめてグループ化し、参照平面を独立させる方が分かりやすいだろう。
⑥参照平面の相互関係
参照平面の構成個数には制限がない。そのため、複数の参照平面を構成した場合、相互的な配置の意味や関係性を考える余地が生じる。これは各々の参照平面を構成する概念のグループ同士の関係性によって大方決まるだろう。最もわかりやすいのは、複数の参照平面を構成する概念のグループ同士が、包摂/被包摂、抽象/具体、上位/下位などのように階層的な関係にあるケースである。この場合、抽象的な参照平面は具体的な参照平面を包摂し、階層的に下位の参照平面は上位の参照平面に帰属することになる。
※再掲

◆参照平面の使用法――「考え方の集合」を考える
ここでは「考え方の集合」を考える、という思考方法について概説する。これは汎用性の高い問題解決の方法として活用できるものである。以下では、この方法の基本的な手順と応用方法を述べる。基本的には、参照平面の主要機能に沿って、3段階で考えていくことになるが、参照平面自体はかなり難しい概念であるため、この概念の説明は省いてしまっても構わない。この場合、純粋に概念の集合を考えるが、手順は変わらない。
手順①構成
第一の機能により、無限あるいは有限の考え方の集合(考え方のグループ)を考える。
※無限あるいは有限の概念の集合をベースとして考え方の集合をつくる、と考えてもよいだろう。
【考え方A、考え方B、考え方C、考え方D、考え方E…】
ここで集めるのは、物事に対する何らかの考え方を表現するような概念である。
手順②分類
第二の機能により、この考え方の集合を、既知のグループと未知のグループに分類する。
未知のグループ【考え方Ⅹ、考え方Y、考え方Z…】
既知のグループ【考え方A、考え方B、考え方C…】
手順③遷移
最後に、既知の考え方から未知の考え方に移行することを考える。形式的に表現すると、次のようになる。
複数の考え方間の遷移:考え方α→考え方β
◆遷移度――考え方の集合の分布を考える
手順1~2は、無限または有限の「考え方の集合」を構成したうえで、それを既知の領域/未知の領域に配分する手続きである。ここで認識領域R(K領域/U領域)上における「考え方の集合」の分布を考えると、面白い洞察が得られるだろう。
※第3章では、認識表現モデルを紹介する。認識表現モデルでは、遷移度/明瞭度というメトリックを通じて、認識を構成する諸要素の分布と影響を考えていく。
手順1~2で構築した無限あるいは有限の「考え方の集合」は、既知の領域と未知の領域に分布している。このとき各領域には、それぞれ次の要素が含まれている、と考えられる。
既知の領域――既知の考え方、現在の自分の考え方
未知の領域――未知の考え方、現在の自分にとって新しい考え方
ここで一般に、図式的に各領域について次のことが言える。
既知の領域(K領域)既知の領域には、既知の考え方のグループが属し、分布している。この既知のグループには、現在の「自分の考え方」が含まれている。
未知の領域(U領域)未知の領域には、未知の考え方のグループが属し、分布している。この未知のグループには、現在の自分にとっての「新しい考え方」が含まれている。
ここで手順3として、考え方α→考え方βへ連続的に移行していく。何らかの問題を解決したいとき、複数の考え方の間を移行し、切り替えることを考えるのは、次のような理由による。
理由①既知の領域には、既知の考え方のグループが属し、分布している。この既知のグループには、現在の「自分の考え方」が含まれている。ところが、もし既にその問題を解決しうる考え方が既知の領域に含まれているならば、その問題は既に解決に至っているだろう。ところが、図式的に見ると、問題解決のプロセスにおいて、既知の考え方のグループに属する「(現在の)自分の考え方」は、まだ問題を解決できていない/できなかったという事実がある。
理由②未知の領域には、未知の考え方のグループが属し、分布している。この未知のグループには、現在の自分にとっての「新しい考え方」が含まれている。ある問題がまだ解決に至っていないとき、その問題を解決しうる適切な考え方は、図式的にみて未知の領域(U領域)に含まれている。というのは、もし既にその問題を解決しうる考え方が既知の領域に含まれているならば、その問題は既に解決に至っているはずだからである。
このように考えると、「考え方の集合」について、一般に次のことが言えるだろう。
手順①では、無限あるいは有限の考え方の集合を構成するが、この考え方のグループ内には、定義上、当該の問題を解決するための最も適切な考え方が含まれている。
手順②では、この考え方のグループを認識領域に分類・配分し、既知の領域/未知の領域における分布を考えた。既知の領域には、現在の自分の考え方が含まれ、未知の領域には、新しい考え方が含まれている。図式的に考えると、現在の自分の考え方を含む、既知のグループはまだ問題を解決できておらず、問題を解決しうるような、適切な考え方は認識主体にとっての未知の領域(U領域)に存在することになる。
これが問題解決のプロセスにおいて、思い込みを疑うことが重要である、合理的な理由である。
複数の考え方間の遷移:考え方α→考え方β
考え方の集合と懐疑的な思考/創造的な思考
考え方の集合を考えるとき、問題になるのは、複数の考え方を切り替えることである。
【考え方1、考え方2、考え方3、考え方4、考え方5…】
複数の考え方間の遷移:考え方α→考え方β
※これは本来、特定の「正しい考え方β」に到達すること自体を表す訳ではなく、現在の考え方がどのようなものであれ、さらに新しい考え方へ移行することを意味するものであり、これには終わりがない。
このような変遷は、第1章において述べた実践的な思考の三つの極による協働によって、はじめて可能になる。ただしここでは自覚性は省略し、懐疑的/創造的思考について考えよう。
◆懐疑的思考
懐疑的思考とは、既知の考え方を疑う思考である。既知の領域には、既知の考え方のグループが属し、分布している。
既知のグループ【考え方A、考え方B、考え方C…】
既知の考え方のグループには、多くの場合、無意識に非常に強固な思い込み――「自分の考え方は絶対に正しい、間違っていない」――がもたれている。この思い込みこそ、問題解決の最大の障害になる。懐疑的な思考は、既知の領域を揺るがすことによって、複数の考え方間の移行や切り替えを可能にしてくれるものである。
◆創造的思考
創造的思考とは、未知の考え方を創り出す思考である。未知の領域には、未知の考え方のグループが属し、分布している。
未知のグループ【考え方Ⅹ、考え方Y、考え方Z…】
複数の考え方間の遷移:考え方α→考え方βは、既知の考え方を疑うだけでは十分ではなく、未知の考え方を創り出し、懐疑/創造の協働による思考の運動が必要になる。創造的な思考は、未知の領域を局所的に崩し、新しい考え方を既知の領域に招来させることによって、複数の考え方の移行や切り替えを可能にしてくれるものである。
懐疑的思考と創造的思考には、認識領域上において、相互に対照的かつ反転的な関係性にある。第4章において、この点について詳述しよう。この二極の協働によって、複数の考え方間の連続的な変遷【考え方α→考え方β】は可能になる。
■表示と共有:事例;教育学への応用ケース
参照平面の第三の機能とは、表示と共有であった。参照平面を、諸々の考え方のグループから構成されるものとして構築した場合、この考え方のグループは平面上に表示され、特に対話や議論の場においては、他者と共有することができるようになるのである。このような機能まで含めて理解されれば、この概念は、複数人で用いる場合は高度な思考をおこなうための共通言語として用いることができ、相互的なコミュニケーションを促進することが期待できるだろう。
この思考方法は、もともと教育現場をはじめ、様々な社会的な場で活用できるよう開発した思考方法であり、思考力やメタ認知力を養い、問題解決力を向上するうえで役立つだろう。そのほか多角的な思考力の向上、認知バイアスの回避など、様々なテーマに応用可能である。第4章で紹介する未概念法に比べるとはるかに分かりやすく、使い勝手もいいと思われる。


二重モチーフへ
概念空間論では、すべての部分的なモデルは二重モチーフ――地理/光――に基づいて設計されている。参照平面のこの二つの側面について確認しておこう。
地理学的側面――参照平面は、第一の機能を通じて、無限に多様な概念の集合を自由に分類・グループ化することができる。さらに第二の機能によって、無限に多様な概念の集合は、既知のグループと未知のグループに分類されることになる。これは諸概念のグループの布置関係を設計する働きであり、本質的に地理学的な機能と考えることができる。この第一と第二の機能による諸概念のグループの配置関係は、認識表現モデルにおける認識領域R(K領域/U領域)上の諸概念のグループの分布と対応・同期することになる。参照平面による諸概念のグループの布置関係は、認識表現モデルでは、遷移度という尺度によって表現されることになるだろう。
光学的側面――第1章の概念の機能論では、概念の光学的な機能について言及した。参照平面とは、諸概念のグループから構成される平面であるため、同様に光学的な機能を持つことになる。上述のように、参照平面は、第一の機能によって、無限に多様な概念の集合を自由に分類・グループ化し、さらに第二の機能によって、無限に多様な概念の集合を既知のグループと未知のグループに分類する。
このとき、各々の概念は、その光学的な機能によって、各々の概念の射程内に収められた認識領域上の各部分を照射することになる。すなわち、既知の諸概念のグループは既知の領域(K領域)を照らし、未知の諸概念のグループは、未知の領域(U領域)を照らすことができる。無限に多様な概念の集合Gは、参照平面上の配置関係に応じて、既知の領域と未知の領域を合わせた認識領域Rの全体を隈なく照射するのである。
参照平面のもともとの基本コンセプトとは、無限に多様な観点(パースペクティヴ)から光を照射し、その莫大な光量によって問題および思考対象のあらゆる像を浮かび上がらせることであった。参照平面を用いる限り、無限に多様な観点(=既知の観点と未知の観点)を通じて、原理的に思考対象のあらゆる側面を把捉することができるのである。このような参照平面の光学的な側面は、認識表現モデルにおける認識領域上の明瞭度と結びつくことになる。
最後に、参照平面と未概念法の関係について述べておこう。参照平面には、第二の機能によって、無限に多様な概念の集合を既知/未知にグループ化する機能がある。ただし、ここで問題がある。U領域に属する諸概念のグループは、そのままでは存在を想定することはできても使用できない、という問題である。しかし、概念空間論を問題解決に応用するときには、U領域に属する諸概念のグループは、第4章の未概念法という新しい概念を連続的に創造する方法論によって供給されることになる。

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