こんにちは、馬渕です。
今日は、私たちはうつ病がもつ多面性&複雑さに対して、社会的にどう向き合うべきかという少し規模が大きいテーマを考えてみたいと思います。
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うつ病に限らずなのですが、「精神疾患」というのは極めて複雑な現象で、その全体像や多様な側面を詳細に把握することはなかなか難しいですよね。
このうつ病の多面性&複雑性は、
うつ病を経験する患者個人のレベルでも、
うつ病について論じる学術的なレベルでも、
精神医療における医師-患者の対話のレベルでも、
うつ病に向き合う社会全体のレベルでも、
etc…
私たちがうつ病に関わるあらゆる水準(レベル)で現れていると思います。
そして、「精神疾患」のような精神医学的なテーマについては、どのような場面であれ、常に、多角的な視点から考えようという姿勢や能力が必要になります。
ところが、こうした複雑な現象のもつ多面性を捉えることは、極めて難しい…。
これは恐らく、うつ病の治療を目指す精神医療に携わる方や、うつ病を研究している方ほど実感していることではないでしょうか。
現在、日本国内で見ても世界で見ても、膨大な量の人々がうつ病を経験していますが、私たちが今社会的に直面しているのは、決して
「うつ病をどう治療すればいいか?」という精神医学や精神医療における病気・症状へのアプローチ方法だけではないと言えます。
うつ病は複雑かつ多面的な現象であるがゆえに、個人的なレベル、対話のレベル、社会的なレベルなどにおいて「多角的な視点から考える」という考え方を、どのようにして実現するか?
こうした社会学的かつ哲学的な問題もまた、生じているのです。
私はこのような問題意識から、うつ病のような複雑で多面的な現象を、十全に理解するための方法について、これまでずっと研究を続けてきました。
この記事では、うつ病という極めて複雑で多面的な現象におけるあらゆる側面を、いかなる部分も見落とすことなく、十全に理解するためにはどうしたらいいか?
この問題を完全に解決するために、「参照平面」という新しい概念(考え方)をご紹介したいと思います。
この概念は、物事の多様な側面や複雑性を余すことなく捉え、多角的に思考するために開発した考え方で、
うつ病のもつありとあらゆる側面を完全に理解し、把捉するうえで役立ちます。
今日の記事は、特に精神医療に携わる方、うつ病を研究している方、精神医学的なテーマに関心がある方にお読み頂ければ嬉しいです。
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参照平面とは何か?
参照平面は、「無限に多様な概念&観点(パースペクティヴ)の集合」という考え方を中核に据えた概念です。
少し定義が抽象的で難しいのですが、「無数のレンズの集合体」をイメージしてみて下さい。
光学的なレンズは、光を屈折させ、特定の箇所に焦点を結び、像を浮かび上がらせます。
「無数のレンズの集合体」としての参照平面は、光源としての、無限に多様な観点(パースペクティヴ)から光を照射し、考察対象の持つあらゆる側面(像)を浮かび上がらせることに主眼を置いた、光をモチーフとした概念です。
つまり、この参照平面という概念を用いると、(「うつ病」のように)我々が直面する問題や考察対象について、あらゆる側面に光を当て、すべての像を認識できるのです。
この参照平面という概念を用いると、多角的な視点から考えることが原理的なレベルで保証され、一切の見落としなく物事のあらゆる側面を把握することができ、把捉できないものは完全になくなります。
円錐(立体)としてのうつ病
ここでは、うつ病についてさらにイメージしやすくするために、
うつ病という現象を、立体としての円錐と等置してみて頂きたいと思います。
円錐には、正円、楕円、放物線、双曲線のように、様々な断面の種類があることが知られています。
この円錐というイメージによってお伝えしたいのは、対象をどんな観点から眺め、どんな風に切り取るかによって、浮かび上がる像(断面)は変わるということです。
うつ病は多様な側面をもつ多面体であり、うつ病を円錐としてイメージしてみると、様々な観点(パースペクティヴ)から眺めたり、切り取ることができることに気づきます。そして、
参照平面は、「無限に多様な概念&観点(パースペクティブ)の集合から構成されるため、
無限に多様な切断面を持つ円錐を眺めるための、あらゆるパースペクティブをすべて包含しているのです。
参照平面(=無限に多様な概念&観点の集合(パースペクティブ群))という概念を用いることで、
円錐としてのうつ病についてありうる、無限に多様な断面をすべて把握することが可能です。
うつ病の多面性・複雑性
うつ病の多面性・複雑性がどんな風に現れるかを考えてみましょう。
患者個人のレベルであれば、例えば、
うつ病を克服するために、目の前の現実への捉え方(認知)を変え、心の状態を変えるために、視点を切り替えるトレーニングが必要です。
つまり、うつ病患者は常に、認知(パースペクティヴの切り替え)の問題に直面しています。
またうつ病を克服するうえで、精神的な症状に向き合いながらも、同時に、人生の方向性&生き方の問題、仕事・働き方の問題、他者とのコミュニケーションの問題、お金の問題(経済的な問題)、家族関係の問題など、
人生の諸テーマに同時に対処し乗り越えなければいけない、という複雑性があります。
うつ病の治療のシーンにおいては、どうでしょうか。
例えば、うつ病は、併発する病気や、類似するが異なる病気が数多くあります。身体疾患と併発して生じることがあったり、単極性のうつ病と思ったら双極性障害であることもある、などのようにです。
うつ病について、少しでも思い込みを持った瞬間、ほかの可能性は見落とされてしまい、精神疾患の持つ多面性・複雑性をとらえ切れなくなるという事態が生じてしまいます。
うつ病を研究する学術的なシーンは、どうでしょうか。
うつ病の原因・背景・関連するテーマには、様々なものがあることが知られています。例えば、
・遺伝要因/環境要因
・神経学的原因(モノアミン仮説、神経障害仮説、神経炎症(ミクログリア)仮説、ウイルス説など)
・性格特性(メランコリー親和型など)
・感覚過敏、発達障害(ASD、ADHD等)
・身体疾患、(内分泌疾患、冠動脈疾患、消化性潰瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病、パーキンソン病、脳血管障害、がんなど)
・医原性(インターフェロン製剤、ステロイド系の薬など)
・ライフイベント(引っ越し、転校・転勤、就学・卒業、入社・退社、出産、結婚・離婚、死別、離別、ペットロスなど)
・環境によるストレス…家庭(虐待、ネグレクトなど)/学校(いじめなど)/会社(過労、パワハラなど)など
・貧困、社会的孤立、ひきこもり、
・トラウマ、PTSD(事故、性被害、地震、戦争など)
・更年期、PMDD(女性の場合)、
性的マイノリティー、etc…
「うつ病の原因・背景」という側面に着目しただけで、これだけの像が浮かび上がります。
前提:多角的な視点の重要性
私は、うつ病の多面性&複雑性を捉えるためには、
「視点・観点(パースペクティヴ)の多数化」という新しい哲学的な考え方(アイディア)を使う必要があると考えています。
これが今回の話のなかで核心となる部分です。
うつ病を経験する患者個人のレベルでも、うつ病について論じる学術的なレベルでも、精神医療における医師-患者の対話のレベルでも、うつ病に向き合う社会全体のレベルでも、etc…
あらゆるシーンで「視点・観点の多数化」という考え方を前提としたうえで、うつ病に向き合う必要があるのです。
「視点・観点の多数化」をしないと、(=限定的な視点で考えると)
私たちはうつ病(精神疾患)に対して、一人称的、主観的、盲目的な判断を下してしまうリスクが高まり、
「自分の考え方は正しい」と信じてしまったり、特定の部分だけを切り取り思い込みをもったり、バイアスによって様々な側面を見落とし、
うつ病を理解できなくなってしまうからです。
うつ病の多面性&複雑性を余すことなく捉えるためには、視点を多数化するというアイディアを組み込んだ、新しい思考ツール(思考の枠組み)が必要になります。
今回ご紹介している【参照平面】という概念は、物事のあらゆる側面を把捉したうえで相互的なコミュニケーションが図れるよう設計されたもので、社会的な思考ツール(思考の枠組み)として用いることができます。
思い込み・バイアスを原理的に排除する方法
参照平面という概念には、思い込み(認知バイアス)を回避するための考え方も組み込まれています。
先ほど、うつ病についての思い込み(バイアス)の事例として、
診断のシーンにおける「単極性のうつ病 or 双極性障害?」という誤診リスクのケースを挙げました。
参照平面は、「無限に多様な概念&パースペクティヴの集合から構成された平面」を意味しますが、
この無限に多様な要素(概念、観点)を、既知の要素/未知の要素に分類します。
つまり、参照平面には、我々にとって無限に多様な未知の概念&観点(パースペクティヴ)がすべて包含されているのです。
◆参照平面のケーススタディー目の前に丸い「円」の絵が描かれているとき、私たちはそれを平面図形としての「正円」として捉えるかもしれません。
ところが、その「平面の正円」は、もしかすると立体図形としての「円柱」の上方から眺めたときの像にすぎないかもしれません。
このとき、「正円」は既知の観点(パースペクティヴ)から得られた認識でこれは思い込み(認知バイアス)を含む可能性があります。
そして、この対象が「円柱」であると見抜くことができるのは、未知の観点(パースペクティヴ)です。
参照平面は、無限に多様な概念&観点の集合から構成され、既知の観点と未知の観点の両方を含みます。
これにより、思い込み(認知バイアス)を回避するために必要な、新しい道の概念&観点(パースペクティヴ)を想定して思考を進めることができ、
またうつ病の治療/克服という問題解決のプロセスに必要なあらゆる概念&観点(パースペクティヴ)を、原理的なレベルで確保することができます。
参照平面の使用方法
この考え方を用いると、例えば、抽象的な概念を集め、(概念の集合から構成された参照平面)
メタ的/抽象的/具体的な視点、巨視的(マクロ)/微視的(ミクロ)な視点、時間的/空間的な視点、絶対的/相対的な視点、量的/質的な視点、人称的な視点、精神的/物質的な視点、長期的/中期的/短期的な視点etc…
こうした多様な概念あるいは観点(パースペクティヴ)から構成された平面を定義することができます。
例えば、うつ病について、
巨視的(マクロ)な考え方をしながら、微視的(ミクロ)な視点から考えることができ、全体像をとらえながら、部分に焦点を当てることができ、長期的なスパンを大事にしながら、短期的な視点でのアプローチを重視することができます。
参照平面の概念を用いるときは、こうした「無限に多様な観点(パースペクティヴ)」を切り替えながら思考します。
また、こんな使い方も可能です。
参照平面は、「無限に多様な概念の集合」から構成される平面であるため、
「分野的な参照平面」を作成すれば、
医学的な観点、神経学的な観点、生物学的な観点、社会学的な観点、哲学的な観点etc…
こうした様々な学問分野の枠組みや、各学問が含む概念、考え方、アプローチをすべて含むことができます。
また認識能力をもつ人物の集まりとしての「人称的な参照平面」を作成すれば、
うつ病患者、医療関係者(精神科医など)、患者の家族、患者のパートナー、介護者etc…
こうしたうつ病に関係するあらゆる人物の集合を、観点(パースペクティヴ)として含めることもできます。
これらの種類の異なる参照平面は、
抽象概念の参照平面/分野的な参照平面/人称的な参照平面etc…
複数組み合わせることで、問題を分析するためのシステムとして活用できるのです。
参照平面=無限に多様な概念&パースペクティヴの集合によって、問題を考察する
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思考ツールの公共性を確保する
参照平面は、「無限に多様な概念&パースペクティヴの集合から構成された平面」を意味します。
つまり、問題解決に必要な情報としての無限に多様な概念&パースペクティヴを、パネルとして視覚的に表示することが可能です。
この定義によって、概念の公共性が保証され、相互的なコミュニケーションが促進できるように設計してあります。
当事者の人々同士の対話でも、医師-患者間のコミュニケーションでも、専門家同士の話し合いの場でも、
問題解決のための共通言語&コミュニケーション・ツールとして用いることができます。
参照平面の意義とは?
私は、うつ病のような極めて複雑で多様な側面を持つものを、
過度に単純化したり、一部の側面だけを重視したり、恣意的に切り取ったり、反対に別の側面を見落としたり、一面的に捉えるのではなく、
その複雑性・多面性を認めながら、十全にあらゆる側面を理解することに強い関心を持っています。
そしてできれば、うつ病について、この社会の中で誰もがその多様な側面について理解できるようにし、
医療関係者や患者だけでなく、その家族やサポーターを含むすべての人々が、互いに円滑にコミュニケーションをできるようにすることに、微力ながら貢献したいと思っています。
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精神疾患を扱う精神医学&医療のなかには、まだ多面的としてのうつ病を理解するための十分な概念的な枠組みがありません。
この社会の中で、私たちがうつ病のような多面的かつ複雑な現象を理解するためには、多角的な視点から考えるための、新しいシステム(思考ツール)必要だと思います。
そのため、この参照平面という概念を、多くの人々に思考ツール&コミュニケーションの共通言語として実際に使用して頂きたいと思います。
参照平面という概念は、「無限に多様な概念&パースペクティヴの集合から構成された平面」を意味しますが、
この概念の基本コンセプトは、情報を視覚的にパネル表示できるなど、常に公共性を保たれるように定義しているため、
学校、会社、病院など、様々な組織・集団内における共通言語・思考ツールとして用いることができます。
例えば、医師-患者の間での病気や治療についての相互的なコミュニケーションを促進し、理解を深めるうえで効果が期待できたり、
うつ病の学術的な研究においては、うつ病についてのあらゆる視点の集合を考え平面に表示することによって、議論を整理することができたりします。
もしご興味をお持ち頂き、組織に導入することを検討して頂ける場合は、
この概念のさらに詳しい使い方を説明させていただくので、ぜひ気軽にメッセージを頂ければと思います。
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