こんにちは、馬渕です。
このページでは、認知バイアスについて扱いたいと思います。
当サイトでは、概念空間論という考え方をご紹介しています。
この概念空間論は、認知バイアスを含め思い込みに関連する問題全般を解決するための、非常に強力な思考ツールとしての側面があります。
そのため以下では、認知バイアスの回避・解決方法についてお話ししたいと思います。
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はじめに――認知バイアスと概念空間論
認知バイアスは、認知科学の分野を中心として盛んに研究が行われていますが、近年非常によく聞くキーワードですよね。
恐らく、これまでに認知バイアスについて書籍などで学んだことがある方は、
「どうすれば、認知バイアスは回避できるだろうか?」とお考えになったことがあるのではないでしょうか。
私は、この認知バイアスや思い込みなどのテーマを長年研究しているのですが、以前からずっと、このような問題意識を持っておりました。
思いこみや認知バイアスの問題を包括的に扱うことができ、また原理的なレベルから解決するための新しい方法論やアプローチ、哲学的なシステムを構築できないだろうか?
思い込みや認知バイアスの問題とは、突き詰めると、
物事についてどれだけ自由に思考できるか、自由に認知を変えることができるか
という問題に帰着するように思います。
こちらの動画では、何ものにも囚われない、自由な思考をするとはどういうことか、というテーマで少し雑談をしていて、思い込みについて少しお話しています。
思い込みや認知バイアスの問題を包括的に扱い、根本的に解決するために、私は概念空間論という考え方を体系化しました。
概念空間論は、思い込みや認知バイアスに対処するための理論体系として活用することができるのです。
こちらはイメージ図になります。
以下では、認知バイアスの本質を考えながら、同時にそれを回避するための枠組みや思考ツールをご紹介したいと思います。
Youtube動画の紹介
認知バイアスについて話すYoutube動画を作成しました。
この記事の導入として役立つかもしれませんので、よければぜひご覧下さい。
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認知バイアスとは何だろう?
そもそも、認知バイアスとは何でしょうか。
改めて定義しようとすると難しく感じますが、この点について考えるために、まず認知バイアスの種類や具体例を挙げたいと思います。
認知バイアスの種類と具体例とは?
現在、認知バイアスは、数百種類ものパターンが知られています。
認知バイアスは、以下のように人間の認知を構成する機能に伴い、様々なシーンで登場します。
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注意機構に関するバイアス、知覚認識におけるバイアス、感情・記憶のバイアス、意思決定のバイアス、対人関係のバイアス、社会的バイアス、論理的推論におけるバイアス、経験則・信念から生じるバイアス、統計的判断におけるバイアス、、、
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また具体的な種類として、次のようなものが挙げられます。
認知バイアスの種類・具体例
■確証バイアス(confirmation bias):
自分の信念や仮説に合致する情報を優先的に集め、反対の証拠を無視または避けようとする傾向。
■生存者バイアス(survivorship bias):
成功した人や事例のみに注目し、失敗例や途中で脱落したケースを無視してしまい、全体像を誤解する認知の偏り。
■現状維持バイアス(status quo bias):
今ある状況を変えることに抵抗し、たとえより良い選択肢があっても、現状をそのまま維持しようとする傾向。
■不作為バイアス(omission bias):
積極的に行動するよりも、何もしない(不作為)ことを選ぶ方がリスクが少ないと感じてしまう心理的傾向。
■内集団バイアス(in-group bias):
自分が属する集団の人々を、外部の集団よりも好意的に見たり、優先的に扱ったりする傾向。
■同調性バイアス(conformity bias):
特に緊急時などに、自分の判断を放棄し、多数派の行動に合わせてしまう心理的傾向。
■保守性バイアス(conservatism bias):
新しい情報よりも、すでに持っている信念や知識を優先し、考えをなかなか更新しない傾向。
■モラル信任効果(moral licensing effect):
「自分は良いことをしている」という意識が免罪符となり、その後の非倫理的な行動を正当化してしまう現象。
■正常性バイアス(normalcy bias):
危険や異常な状況に直面しても、「大したことはない」「いつも通りだ」と過小評価してしまう傾向。
■楽観性バイアス(optimism bias):
「自分は大丈夫」「悪いことは起こらない」といった、将来に対して過剰に楽観的な見通しを持つ傾向。
■自己標的バイアス(overperception of self as a target):
他人のささいな言動を、自分に対する敵意や悪意の表れだと誤って受け取ってしまう認知の傾向。
■ポジティブ・イリュージョン(positive illusion):
現実を自分に都合よく解釈し、自分の能力や未来について過剰にポジティブに捉える傾向。
■計画錯誤(planning fallacy):
何かを達成するのに必要な時間やコストを、実際よりも短く・少なく見積もってしまう傾向。
認知バイアスの原因――ヒューリスティック
認知科学などの分野では、認知バイアスの最大の原因として、ヒューリスティックの存在が指摘されています。
ヒューリスティックは、アルゴリズムと対比して考えると非常に面白いですね。
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認知バイアスの本質――共通する特徴とは何か?
ここで考えてみたいのが、次のポイントです。
認知バイアスの本質とは、いったい何だろう?
先ほど確認した通り、認知バイアスには、様々な種類やパターンが考えられるものの、
共通して「認知バイアス」と呼ばれる以上は、何か隠れた本質的な要素があると思われます。
私は、あらゆる認知バイアスが持っている共通の特性とは、「認知的な固定化状態」であると考えています。
人間の認知について、次のような形で自由度という尺度を設定して考えてみると、どうなるでしょうか。
この尺度に照らしてみると、認知バイアスとは、人間の認知(ものの捉え方・考え方)が固定化の状態にあることである、と考えられます。
あらゆる認知バイアスは、我々の思考や認知が固定的で、パースペクティヴを切り替えられない状態で生じると考えられるのですね。
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概念空間論による認知バイアスへのアプローチ
あらゆる認知バイアスに共通する特性とは、認知が固定化されてしまい視点(パースペクティヴ)が切り替えられないことでした。
ということは、認知の自由度を高め、より多くの視点を切り替えることができれば、
さらに言えば、そうした体系的なシステムを構築できれば、認知バイアスを原理的なレベルから解決・解消できることに繋がるのではないでしょうか。
認知バイアス問題の解決策――無限に多様な概念&パースペクティヴの集合
この認知バイアス問題への最も根本的なアプローチとして使えるのが、
「無限に多様な概念の集合」という考え方です。
(またはその変形としての、無限に多様なパースペクティヴの集合)
なぜ、無限に多様な概念の集合という考え方が、認知バイアス全般の解決策になるのかといえば、
概念は、人間の思考のプロセスの中で、多様な考え方・観点・像・枠組み(アイディア・パースペクティヴ・イメージ・パラダイム)などとして機能するからです。
認知バイアスとは、人間の認知の自由度が低く状態にあり、認知が固定化した瞬間に生じるものでした。
ということは、物事に対して、常に可能な限り多様な観点(パースペクティヴ)を自由に切り替えられることが求められます。
そのためには、観点(パースペクティヴ)を多数化することが不可欠です。
なぜなら、もし我々が持つ観点(パースペクティヴ)が一つしかなければ、
他にもあり得るはずの観点に移行(シフト)することができず、認知が固定化状態に陥ってしまうからです。
あらゆる事物に対して、多様な観点(パースペクティヴ)を予め用意することで、認知的な自由度を高めることができると考えられます。
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概念空間論
そのために、概念空間論の考え方が役立ちます。
概念空間論は、概念の集合というものを扱うための体系的な枠組みです。
特に無限に多様な概念の集合を用いて思考できることが最大の特徴で、
概念とはそのまま観点(パースペクティヴ)を表現できるものであるために、
概念空間論は、まさに無限に多様な観点(パースペクティヴ)の集合を包括的に扱える枠組みなのです。
以下では、概念空間論を活用すると、どのように思い込みや認知バイアスを解決できるのか、順を追ってご紹介したいと思います。
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参照平面とは何か?
概念空間論のなかで、特に重要な役割を果たすメインの概念として、【参照平面】というものがあります。
※詳細はこちら

【参照平面】とは、無限に多様な概念の集合から構成される平面なのですが、主に次の4つの機能を持っています。
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第1の機能:概念の集合を自由に分類・グループ化できる
第2の機能:概念の集合に解釈を加え「〇〇の集合」を作れる
第3の機能:概念の集合を既知のグループと未知のグループに分ける
第4の機能:概念の集合を平面上に表示しかつ共有できる
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参照平面のこれらの機能を駆使することで、認知バイアスの問題を解決することができます。
第1~第4の機能
参照平面は、今回のケースでは次のように使用することができます。
まずは、
第1の機能により、概念の集合を自由に分類・グループ化し、さらに
第2の機能により、概念の集合から「考え方の集合」「観点の集合」を作ります。
さらに
第3の機能により、既知の考え方や観点と、未知の考え方や観点を分け、
第4の機能により、これらを平面上に表示し共有します。
今回、特に注目していただきたいのは、第2の機能と第3の機能です。
参照平面では、無限に多様な概念の集合から、自由に
(無限に多様な)考え方の集合や観点の集合を作ることができます。
無限に多様な考え方や、無限に多様な観点(パースペクティヴ)を使えるのですから、
これほど強力に思い込みや認知バイアスにアプローチする方法はないことに、
すぐにお気付きになると思います。
以下は、無限に多様な概念の集合の、イメージ図です。
こうした概念のグループを通じて、あらゆる考え方や観点を切り替えながら思考することが可能になります。
思い込みや認知バイアスを、原理的に回避できるのですね。
参照平面の第3の機能②既知と未知の区分
参照平面の第3の機能は、自分の中にある思い込みを自覚したり、認知バイアスを想定するうえで効果を発揮します。
【参照平面】という概念の核となるのは、「無限に多様なパースペクティヴの集合」という考え方ですが、
この【参照平面】の枠組みでは、「無限に多様なパースペクティヴの集合」を、既知の考え方や観点と未知の考え方や観点に分類します。
これは極めて重要なポイントです。
重要なのは、概念をこのように設計(デザイン)することで、
既知のパースペクティヴを相対化したうえで
さらに未知のパースペクティヴを想定することができ、
バイアスに囚われた状態のまま思考することは、そもそも不可能になる、
バイアスを回避せざるをえなくなる、ということです。
これが「原理的なレベル」という表現を使用している理由です。
懐疑的参照平面とは?
参照平面は、限りなく自由度が高い使い方ができる概念です。
例えば、統計データを駆使した判断を行うときなどに使える方法として、
懐疑的な参照平面というものがあります。
参照平面とは、概念の集合から構成される平面ですから、
物事に対する(今回の例では、統計データ)、懐疑的な機能を果たす概念を集めて、平面を構成することができます。
これが懐疑的な参照平面です。
この平面を、目の前の問題に向けて設定すれば、無限に多様な概念を用いて、
思い込みや認知バイアスをしっかりと疑うことができるのです。
事例
ケーススタディー①確証バイアス
例えば、「確証バイアス」という認知バイアスを回避するためには、自分の主張や信念や考えすら問い返すことができるような、
「懐疑的なパースペクティヴの集合」を考え、そこから【参照平面】を構成します。
また「生存者バイアス」という認知バイアスを回避したい場合であれば、
【参照平面】を「生存者」と「脱落者」の両者に等しく光を当てるパースペクティヴの集合から構成することができます。
ケーススタディー②円柱の事例
もう一つ、今度は視覚的な事例を挙げてみます。
突然ですが、次の絵は何を描いているように見えるでしょうか。
下にスクロールする前に考えてみて下さい。
素朴に考えれば、「正円」のように見えます。
そして、実際にそれは間違いではありません。
しかし、多くの方が単なる「円」とは異なる可能性を思い浮かべると思います。
ここでもし、私たちが「円」以外の可能性を考えられない場合、これが認知バイアスになる可能性があります。
◆認知バイアスに陥った状態
例えば、この絵が「円」に見えるのは、一部のパースペクティヴから捉えた場合に過ぎず、実際には立体の「円柱」であることがあるでしょう。
これは簡単な事例かもしれません。
ところが、実際に私たちはしばしば「これは円に違いない」という判断と同じ形式の思い込みを持ち、認知バイアスに陥ることがあります。
認知バイアスを原理的なレベルで回避するためには、
このように無限に多様な概念の集合=「考え方の集合」「パースペクティヴの集合」を想定し、そのうえで問題解決に取り組むことが重要だと考えられます。
【参照平面】という概念を用いる限り、確証バイアスのような自分の主観的・固定的な考えを疑い、相対化せざるを得なくなるのです。
他のあらゆる認知バイアスでも同様のことが言えます。
この概念を用いることで、原理的なレベルから認知バイアスに対処するための準備を整えられます。
最後に
【参照平面】という概念は、あらゆる認知バイアスを回避するためのアプローチとして活用できます。
少しでもご参考になればうれしいです。
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