思考の不自由さ&思い込み/信念/バイアス/パラダイム
「一生に一度は、すべてのことを疑うべきである」――ルネ・デカルト『哲学原理』
認識表現モデルは、認識に影響を及ぼす各要素の分布と認識領域の照度の二種類の指標を通じて、認識の状態および変容プロセスを明快に記述しうる。
以下では、このモデルを応用し、幾つかのテーマ――思い込み・信念・パラダイム――再定義・再定式化することを試みる。
これらのテーマは、人間の認識について深く理解するうえで避けることができないものであるが、
認識表現モデルを用いることで新しい洞察が得られるであろう。
順序として、これらのテーマは共通する構造をもつと同時に、日常的な表現としても専門用語としても差異があるから、まずは共通部分を明確にしたモデルを構築し、そのうえで、各テーマについて指摘しておくべきポイントを補足として加えたい。
■認識表現モデル(動と静、動的モデルと静的モデル、ダイナミズムとスタティック)
認識というものは、一般に動的な性質と静的な性質の両方を併せ持つと考えてよい。
様々な学習・経験を通じて、あるいは問題解決のプロセスによって、認識は変容しうる。
この意味においては、認識にはダイナミズムがあると考えられるだろう。
しかし、認識には、変化に抵抗し固定化するようなスタティックな側面もある。
認識の静的な性質として現れるのが、思い込み・信念・認知バイアス・パラダイムのような事象やテーマである。
認識表現モデルは、この認識の両性質に応じて、動的モデルとしても静的モデルとしても用いることができる。
ただし、これは2つの異なるモデルなのではなく、動と静のどちらを側面に光を当て強調するかの違いでしかない。
■思い込みモデル
ここでは認識表現モデルを静的なモデルと見做す場合を、特に思い込みモデルと呼ぶ。
思い込みモデルは、基本となる遷移度/明瞭度の指標に、新しい要素として信念(belief)を加えて構成する。
思い込みの本質は、認知の固定化状態にあるが、これは思い込みモデルを用いることで明快に記述できる。
次の図を参照してほしい。
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この図では、次の3本の線分の関係性が示されている。
第一の線は、信念強度Bを表す。信念の強固さや抵抗の強さとも呼べるだろう。
第二の線は、遷移度/明瞭度の指標を表す。
第三の線は、認識の変容の程度を表している。
三本の線分の関係性を見ると、まず第一の線は第二の線とは反対の方向に延びている。
これは信念の強固さが、遷移度と明瞭度の変化に抗する力として働くことを表し、また認識の変容を引き起こす妨げとなることを意味している。
このモデルを用いると、思い込みを次のように定義・解釈できるだろう。
思い込みとは、認識領域上における遷移度/明瞭度の変化が認められず、またその帰結として認識の変容も引き起こされない認知状態である。
■思い込みによる順強化
上述の思い込みモデルでは、信念は遷移度/明瞭度の変化を阻害し、認識の変容を引き起こさせない要因として働いた。しかし、信念はいつでも認識の変化に反するように働く訳ではない。
以下の図を参照してほしい。

この図では、信念体系は遷移度/明瞭度の変化に直結し、かつ認識の変容をサポーとしている。
信念は、自身の信念に合致する知識や情報、考え方については
思い込みの条件
①信念:特定の信念体系を伴うこと
②遷移度/明瞭度の変化が起こらない
③認識の変容が引き起こされない
※変化の幅が一定の範囲内に維持される
⓪自覚性:自覚されない、無意識的、隠れている(隠蔽性)
①非運動性:懐疑/創造:それが疑われず、また新しい考え方も生じないこと
②強化性:確証バイアスが働くこと
概念空間が固定化されている。
■思い込みと問題解決
問題解決のプロセスにおいて、思い込みはいかなる影響を及ぼすであろうか。
この点について、遷移度/明瞭度の原理を用いて考えてみよう。
次の図は、遷移度/明瞭度の機構に、信念という要素を加えたものである。
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※補足
②は、認識領域上における、様々な要素の分布が変化せず、また認識領域の照度の変化も生じないことを意味する。
遷移度/明瞭度の変化が起こらないことは、幾つかのパターンで捉えてほしい。
概念の集合を重視するならば、これは概念空間が固定化されることを意味する。
パースペクティヴを重視するならば、視点や観点の切り替えが起こらないことを意味する。
認識表現モデルにおける思い込みの解釈――地理学的/光学的、思い込みを疑うべき理由
認識表現モデルを応用して、思い込みをモデル化した。
次に、思い込みを疑うことの哲学的な意義について考えよう。
結論を述べれば、思い込みを疑うことは、単なる思考の運動や操作ではない。
それは哲学的にみて極めて深遠な意義を持つ儀式なのである。
思い込みとは、地理学の問題であり、光学の問題として理解される必要がある。
これは地理学的なモデル、光学的なモデルの両方で理解されなければならない。
既に述べた通り、認識領域はまず既知の領域と未知の領域に区分される。
ここでは認識を構成する諸々の要素の分布と各領域の照度が考えられる。
強固な思い込みは、思考を檻に囚われたものとし、遷移度/明瞭度の変化を阻害する。
認識領域上において、既知の領域は、つねに懐疑をおこなう余地がある領域であり、表面的にどう見えようとその裏側には未知の領域が層として横たわっている。
また未知の領域は、思考がかつて到達したことがない領域である。
認識の問題は、すべて地理学的な問題であり、光学的な問題である。
思い込みを疑うことに
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思い込みを疑うことは、遷移度/明瞭度の変化を促進し、認識の変容を引き起こす。
これは認識領域上において、新しい領域が開拓されること、暗がりの領域が明るみになることを意味する。
つまり、思い込みを疑うことは、地理学的な冒険に出掛けることを肯定することであり、その可能性を広げること。思い込みを疑うことは、自分自身を、光によって照らすこと。光を受容すること。
思い込みを疑わないことは、冒険の可能性を見落とすことであり、光によって照らすことを拒絶すること。
これは文学的な表現ではない。

概念空間論は、自由に思考するための枠組みであり、あらゆる思い込みから思考を開放するための体系である。
なぜ、思い込みを疑わなければならないのか?
それは認識上の制限によって、人間は地理学的かつ光学的な条件に規定されているから。
信念論
バイアス
パラダイム
パラダイムという概念は、もともとは文法用語として生まれたものらしい。
科学史家トーマス・クーンは、1962年に『科学革命の構造』という著作を発表し、このなかで「パラダイム」という概念を提唱した。
人類の歴史のなかで「パラダイム・シフト」という現象が起こることがある。
パラダイムとは「考え方・捉え方の枠組み」のことで、我々が持つ時代的なパラダイムが劇的に変容することをパラダイム・シフトという。
天動説から地動説への変化の事例はよく知られている。
私的な認識の世界「個人が認識する世界」、世界レベルあるいは社会レベル
順強化➡パラダイム強化
既存のパラダイムと融合した信念体系は、当然ながら既存のパラダイムを強化するように働く。
信念体系に合致する知識・情報や考え方については受容的だが、
そして、未知のパラダイムに対しては排他的である。
常識に反するものと退けることになる。
事例;天動説と地動説

パラダイム・シフトの条件:①懐疑②創造③証明
①既存のパラダイムを疑う
②新しい概念群の獲得
パラダイム・シフトの第一の条件は、既存のパラダイムを疑うことである。
まず現在の既存のパラダイムというものがあることに気付き、自覚することが重要になる。
※自覚できなければ、疑うこともできない。
ただし、自覚的な認識は最も困難であるため、常に自分のなかに思い込みがないかを考え、懐疑的な考え方を練習する必要がある。
現在の自分の考え方・認識は、本当に正しいのだろうか?
パラダイム・シフトの第二の条件は、新しい概念群の獲得である。
パラダイムは複数の概念の結び付きによって成立するため、パラダイム・シフトを意図的に引き起こすには、新しい概念を獲得することが不可欠になる。
そのため、①既存の概念を学ぶか、②新しい概念を創ることが必要になる。
色々な著作で様々な分野の概念を学ぶことも重要だが、それだけではパラダイム・シフトが起きるかどうかは偶然に委ねられてしまう。
パラダイム・シフトのような大きな認識の変化をある程度自由に引き起こすためには、概念の扱いそのものを学ぶ必要がある。
新しい概念を創造するための方法論として、【未概念法】というアプローチがある。
パラダイム・シフトには必ず大きな認識の変化が伴うので、
自分にとっての新しい認識(気付き・学び・発見・洞察)は何か?
を考えればいい。
自分がまだ得られていない全く新しい気づき・学び・発見・洞察は何だろうか?
第三の条件は、新しいパラダイムの正しさが証明されることである。
既存のパラダイムが疑われるようになり、新しいパラダイムを構成する諸概念が揃ったとしても、それだけでパラダイム・シフトがすぐに起きるとは限らない。
決定打となるのは、新しいパラダイムの正しさを保証する証拠が発見されることである。
パラダイム・シフトの方法
【思考モデルP】では、パラダイムの集合を考える。
パラダイム集合P={P₀ , P₁ ,P₂ ,・・・ Pn }
このパラダイム集合Pの中で、自分にとっての
既存のパラダイムをP₀
新しいパラダイムをP₁~Pn
とする。
そして、この既存のパラダイムP₀から新しいパラダイムP₁~Pnへの移行を、パラダイム・シフトと定義するのである。

思考の自由度――遷移度/明瞭度
思考の自由さについて、思考の自由度という尺度を考える。
思考の自由度とは、自覚的に認識の変容を起こす可能性が高いことやその能力を意味するものである。
思考の自由度は、次のように地理学的あるいは光学的なモデルによって理解/解釈できる。

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