第3章 認識表現モデル
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概念空間論と認識表現モデル
認識表現モデルとは、認識の状態および認識の変容を把握/表現するための図式である。
認識表現モデルの構成要素
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①認識領域R(K領域/U領域)
②明瞭度
③概念関係式
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①は、認識を空間的な範囲によって表現する概念である。
②は、認識領域Rの状態や変容を表現する尺度である。
③は、認識を複数の概念同士の結び付きによって表現するモデルである。
以下では、まず①~③の概念の概要、関係性や相違点を述べる。
・認識表現モデルの意義については、最後に述べる。
認識領域R
認識領域Rとは
認識領域Rとは、モナド的観点がもつ認識を空間的な範囲によって把握/表現する概念である。
記号としては、RまたはE(R)を使用することが多い。
認識領域の解釈パターン。
認識領域Rは、次のように幾つかの解釈が考えられる。
モデル的なもの
認識領域の範囲;認識領域R=K領域+U領域
認識領域Rは、既知の領域(K領域)と未知の領域(U領域)に区分される。
逆に言えば、認識領域Rは、既知の領域(K領域)と未知の領域(U領域)を合わせた領域である。
そのため、両者の基本的な関係性は次の式で表現できる。
認識領域R=K領域+U領域
・認識領域Rの構成要素
認識領域RおよびK領域/U領域には、認識を構成する様々な要素が含まれる。
構成要素の事例として、次のものが挙げられる。
概念の集合(概念)、個々の認識、知覚情報、知識、記憶、etc…
これらの構成要素は、認識領域R(=K領域/U領域)上の適切な場所に配分され、移動することができる。
こうした考え方によって、認識の状態及び変容のプロセスを明確に記述することができるようになる。
以下では、主要な構成要素である概念の集合を中心に話を進めていく。
その他の構成要素を扱う具体的な事例については、次の節K領域/U領域の項で説明する。
・認識領域Rと概念の集合の関係
認識領域RおよびK領域/U領域は、概念の集合と次のような2種類の関係性を持っている。
これらの関係性は、認識と概念の集合との関係性についての2つの解釈パターンである。
ただし、これらの解釈は、同じことを別の角度から表現したものでもある。
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①地理学的な関係性(配分的、包含的な関係性)
②光学的な関係性
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①地理学的な関係性(配分的関係、包含的関係)
第一の関係性は、地理学的な関係性である。
これは包含的関係、あるいは配分的関係と呼ぶこともできる。
この関係性において、次の2つの前提が置かれている。
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1.概念の集合は、各々の認識の状態に応じて、K領域/U領域に配分される。
2.概念の集合は、認識の変容プロセスに応じて、K領域/U領域を移動する。
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まず認識領域Rは、K領域/U領域に区分されるが、概念の集合はこの両領域の適切な部分に配分されることになる。換言すると、K領域/U領域は、それぞれ概念の集合を部分的に包含する。
概念空間論で扱う無限に多様な概念の集合は、基本的に、既知のグループと未知のグループに分類される。
これは無限に多様な概念の集合が、K領域/U領域に配分される、という意味である。
既知の概念のグループとは、K領域に配分・包含されたものであり、未知の概念のグループとは、U領域に配分・包含されたものである。
こうした分類方法によって、無限に多様な概念の集合は、扱いやすいものになるだろう。
さらに、認識領域Rと概念の集合の配分的/包含的な関係性は、静的なものではなく、認識の変容プロセスに応じて、刻一刻と変化しうる動的なものでもある。
認識領域とその構成要素の配置状態は、決して、永続的に同じ状態に留まる固定的なものではない。
この地理学的なシフトは、特定の操作や手続きによって意図的に起こるか、あるいは何らかの要因によって自然に起こると考えられる。
無限に多様な概念の集合のなかで、U領域(未知の領域)に属する概念のグループは、K領域(既知の領域)へとシフトしうるのである。また何らかの操作・手続き・要因によって、K領域(既知の領域)に属する概念のグループが、U領域(未知の領域)に移行させられることもあるだろう。
概念空間論にとって、認識領域R(K領域/U領域)と概念の集合Gのこの地理学的な関係性は、極めて重要な意味をもつ。
まず、U領域に属する未知の概念のグループは、無限に多様な概念の集合Gによって集合論的に把捉されてはいるものの、そのままでは十分に使用することができない。そのため、何らかの方法を通じて、われわれはこれらの概念のグループを獲得しなければならないのである。
概念空間論では、未概念法という方法論によって、U領域に属する未知の概念のグループを、凄まじい速度でK領域にシフトさせる。換言すれば、U領域に属する無数の概念を、自由に思考することによって発見するのである。大陸のモチーフで表現するならば、これはU領域を自由に踏破するのである。この意味において、U領域に対して、われわれは勇敢な冒険家にならなければならない。
次に、K領域に属する既知の概念のグループは、決してわれわれにとって完全な既知のものであると、つまり完全な認識が得られているものとは考えられない。
なぜなら、K領域に属する概念のグループは、ポジティヴな意味では、まだわれわれが認識できていないような新しい可能性を含むかもしれず、ネガティヴな意味では、何らかの思い込みやバイアスや誤りを含むかもしれないからである。
それゆえに、概念空間論では、様々な方策を通じてつねに「既知の概念のグループ」を疑う。
懐疑的な参照平面によって、あるいは未概念法によって、
未概念法では、既知の概念のグループを未概念として、すなわち過渡的な生成状態にある変容性の概念として見做すことによって、各々の概念がもちうる可能性のすべてを引き出す。また特定の思考モデルを構築する際には、殆どのケースにおいて、「思い込み集合」のようにそのパラダイムに対する懐疑的な概念を含めて思考を進める。
この意味において、K領域に属する概念のグループは、決してK領域の境界内部で安定的に存在するものではない。つねに、U領域との間で地理学的なシフトが生じうるのである。
思い込みを疑うこと、特定の認識主体にとって、想定されることはできても、そのままでは使用することができない。
ただし、この分類方法を採用する場合、次の点については注意が必要である。
K領域/U領域、すなわち既知の領域/未知の領域という区分は、単純な二分法を表しているわけではない。
前述のとおり、認識表現モデルには、明瞭度という概念が含まれている。
明瞭度とは、認識領域Rを明るい‐暗いという連続的なグラデーションで把握するための尺度である。
認識領域Rには、概念の集合をはじめとして、様々な構成要素が含まれるが、すべての構成要素にもまた、明瞭度という尺度が適用されると考えてほしい。
(無限に多様な)概念の集合は、K領域とU領域(既知の領域と未知の領域)に分配されるが、すべての概念について、明瞭度が考えられるのである。
ある概念または概念の集合が、K領域に属する場合でも、それが認識主体にとって完全に理解されているとは限らないし、かりに言葉では既知であると表現されるケースでも、思い込みやバイアスが完全に排されていることを保証するものではないのである。また、ある概念または概念の集合が、U領域に属する場合でも、そのまま完全なる未知を表現するとは限らない。もし、U領域に属する構成要素が、認識主体にとって、完全なる未知である(※明瞭度がゼロ)としたら、そもそもその存在すら全く認識されえないことになる。
認識表現モデルでは、K領域/U領域、既知/未知という区分は、つねに明瞭度というグラデーションによって把握される必要がある。
②光学的関係
第二の関係性は、光学的な関係性である。
概念の機能論で述べた通り、概念は光学的な機能をもち、認識領域Rを照らす効果がある。
光学的な関係性とは、概念の集合が、認識領域に光を照射し、明瞭度の変化を引き起こすという影響関係である。
無限に多様な概念の集合は、前述の包含的または配分的な関係において、K領域とU領域に分配された。
この配分方法は、光学的な関係性とパラレルなものであり、次のように読み替えることができる。
K領域(既知の領域)は、既存の概念のグループによって光を当てられた領域である。
U領域(未知の領域)は、未知の概念のグループによって光を当てられる領域である。
この光学的な関係性は、概念空間論という体系全体のイメージを掴むために、極めて重要である。
この体系内において、無限に多様な概念の集合を扱うのは、U領域とK領域の両領域を、すなわち認識領域R全体を余すところなく、膨大な光量によって照射するためだからである。
無限に多様な概念の集合とは、この光学的な関係性を通じて、認識領域の明瞭度を際限なく高めるためのものである。
ただし、次の点に注意してほしい。
概念の集合と認識領域の光学的な関係性は、双方的のものである。
概念の集合が、認識領域を照らすという表現は、単純化された表現であり、一方通行的な影響関係を想定している訳ではないことに注意してほしい。※新しい認識の獲得➡新しい概念の獲得
・認識領域の設定;①認識主体/水準、②認識の種類
認識領域RおよびK領域/U領域という概念を用いる際は、2つのパターンが考えられる。
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1.抽象化され、純粋なモデルとして考えられるパターン
2.具体化され、認識水準/主体や認識の種類が設定され考えられるパターン
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第一のパターンは、認識領域を純粋なモデルとして考えたものである。
第二のパターンは、認識領域を具体的なものとして解釈したものである。
認識領域RおよびK領域/U領域という概念には、具体的なものと考える場合、幾つかの設定項目がある。
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①認識水準/認識主体
②認識の種類・切り口
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第一の設定項目は、認識水準または認識主体である。
認識表現モデルは、様々な水準で用いることができる。
社会レベル、集団レベル、個人レベル、一般レベル、学問レベルなどである。
ここでは個人レベルを例に挙げよう。
K領域/U領域の状態は、各々の認識主体にとって固有のものである。当然ながら、認識主体が切り替われば、それに応じて認識領域の状態は全く異なるものになるだろう。各々の認識主体にとって、何が既知/未知であるかは異なる。
それゆえ、抽象化されたモデル的な観点を考えるケース以外は、具体的に「誰にとっての/どの水準における既知/未知なのか?」という点について明確にする必要がある。
第二の設定項目は、認識の種類または切り口である。
認識の水準や主体は、
認識領域は、様々な構成要素によって考えられる。
概念の集合、個々の認識、知覚、記憶などである。
・K領域/U領域
・K領域/U領域
K領域/U領域とは、認識主体にとっての認識(領域)を区分するための対概念である。
K領域(known area)とは、既知の領域を意味する。
U領域(Unknown area)とは、未知の領域を意味する。
KとUの記号は英語のイニシャルに由来する。
ただし、「既知」「未知」という表現は、主として「既に認識されている」「未だ認識されていない」という様々な認識を包括的に意味している。この表現は「既に知っている」「未だ知らない」というように、この表現から単純に喚起されるような、知識の状態という狭い意味で用いられている訳ではない。
・認識領域
K領域/U領域を合わせたものを、認識領域Rと呼ぶ。
両者は次のような関係性がある。認識領域=K領域+U領域
K領域/U領域の構成要素
K領域とは、既存の認識――既知の概念の集合、知識、情報、考え方、信念など――が含まれる領域である。
U領域とは、未知の認識――未知の概念の集合、知識、情報、考え方、信念など――が含まれる領域である。
・K領域/U領域の注意点
ただし、この区分には幾つかの注意が必要である。
●ポイント1.K領域の主観性
K領域、あるいは既知とは、知識や認識の客観的な正しさを意味するものではない。
既知の領域とは、つねに特定の認識主体にとって既知であると信じられていることの領域なのである。
それゆえ、概念空間論では既知の領域を疑うための自覚的なシステムも組み込まれている。
●ポイント2.認識領域の区分のファジー性
また認識の領域上に、既知/未知という明確な境界線を引くことが可能だと想定されている訳ではない。
認識領域およびその区分とは、図式的なモデルである。
●ポイント3.未知の領域のグラデーション
【K領域】についての重要な補足
K領域とは「既に認識されているもの」全体の領域のことなのですが、実はK領域の中にも「未だ認識されていないこと」が多く含まれています。既に知られている、既に理解している、既に見えている、、、というように「既知である、と考えられていること」の中には、実はそのように信じられているだけで、無数の「未だ認識されていないこと」が含まれているのですね。そのため、【K領域】について考えるうえで極めて重要なのは、「K領域の中にもU領域に属する新しい認識が含まれていないだろうか?」と疑う自覚的な思考、あるいは自覚的な認識となります。■【K領域】に含まれている「【U領域】に属する新しい認識」
【U領域】についての重要な補足
「U領域」には、定義上、私たちにとってのあらゆる「新しい認識」が含まれています。私たちが取り組むどんな問題についても、次のように想定することができます。「あらゆる問題についての「新しい認識」は必ず【U領域】に属している」これは、言い換えればこういうことを意味します。あらゆる問題解決シーンにおいて、答え(解)は、必ずU領域に存在するこのように想定することで、思考を促進する手立てが得られます。【K領域/U領域】という概念の最大の意義はここにあり、私がこの対概念を用いているのは、このような想定をするためです。
使用法
K領域/U領域という区分を用いると、認識を構成する様々な要素を配分し整理することができる。
まず、①視覚的な【K領域/U領域】の事例を挙げてみます。
■事例①目の前の景色自分の観点から見える、眼前の景色は「K領域」で、それ以外の自分の位置から見えないところは「U領域」に属する。
「K領域」➡自分の視界(目の前の景色)に含まれているもの。
「U領域」➡自分の視界に含まれていない、見えないもの。
■事例②
失くしもの自分のスマホや財布を失くしてしまったとします。すると視覚的にはそれらは見えない(視認することができない)ため、「視覚的なU領域」に属することになります。もし見つかれば「視覚的なK領域」に移行します。
■事例③生物の細胞
私たちが肉眼で生物を観察する限りでは、細胞の構造というのは目に映ることがありません。
視覚的には、そこは「U領域」にあります。電子顕微鏡を覗き確認するとき、その構造は視覚的な「K領域」に入ることになります。■事例④書物の頁書物を繙くとき、開かれているページは「K領域」にあり、閉じられたページは「U領域」にあります。
■②【思考上のK領域/U領域】の事例
■事例①ミステリ小説の犯人
読み始めたばかりのミステリ小説の中で、「犯人が誰であるか」という認識は「U領域」にあり、小説を読み終える頃にはその認識は「K領域」に含まれることになる、と言えます。
■事例②学習のシーン
新しい分野の勉強をするシーンを考えてみます。この場合、既に知識があること・学んだこと・理解できたこと等は「K領域」に含まれ、未だ知識がない箇所・学んでいない事・理解できていないことは「U領域」に属します。■事例③新種の昆虫、新しい天体
昆虫学者が森林で新種の虫を発見した場合、これまでその昆虫の存在についての認識は人間にとって「U領域」に含まれていたものですが、発見によって「K領域」に移行することになります。同様に、天文学者が新しい天体を発見し命名するとき、その天体に関する認識は「U領域」から「K領域」に移行することになります
■事例④数学の問題の答え/未解決問題の解法
自分が解くことができる数学の問題の解は「K領域」に含まれ、解くことができない数学の問題の答えや考え方は、「U領域」に含まれます。また数学の未解決問題の解を導く考え方は、人類にとって思考上の「U領域」に属すると考えられます。
認識の変容
ここまでで、認識領域の基本的な構成を確認した。
次に、認識の変容について考える。
認識の変容
認識の変容とは、意識上において直感的に体験される物事の捉え方の変化のことである。
「わかった!」「なるほど!」「(問題が)解けた!」
認識の変容とは、このような劇的な変化である。
認識の変容は、このような瞬間に起こる。
理解すること、気付くこと、(問題を)解けること、認識が深まること、思い込みがなくなること、、、
これは決して特殊な体験を指している訳ではなく、ごく日常的に体験できることそのものであり、その延長でもある。
認識の変容の事例
科学史における、古代ギリシアの数学者・物理学者アルキメデスの著名なエピソードが記録されている。
彼はシラクサ王からの任務で、贋金?を含む王冠を見抜くように指示された。
この問題の解決方法を思いついた瞬間に、彼はエウレカ ” εὕρηκα ”といった。
「わかった!」「なるほど!」「(問題が)解けた!」
認識の変容は、広義における問題解決のプロセスにおける帰結として現れる。
思考の自由さとは、意図的かつ連続的にこうした「エウレカ」の瞬間を起こすことができるほど自由な、思考の運動の可能性を指す。
概念空間論の全体、あるいはこの体系の部分的なシステムは、まさにこの認識の変容を起こすためのシステムとして設計されている。
補足:認識の変容 ≧ 厳密性、論理性、形式性、正しさ
概念空間論の目的とは、(この思考様式を用いる限り)認識の変容を起こし続けるようなシステムを提供することである。
概念空間論において、思考の自由さについて考えるのは、認識の変容のためである。
つまり、思考の技術・方法論・システムの問題としてである。
―正しさ/論理性/厳密性/学問的
概念空間論は、思考を自由にすること、認識の変容に寄与することを、何よりも重視している。
この体系にとって、正しさ、論理性、厳密性さ、学問的であることよりもその方が重要なのである。
―倫理性
思考の自由さを目的と定めるのは、倫理的な意味においてではなく、倫理的な価値観を含んでいない。
すなわち、直接的に自由=「善いこと」「正しいこと」と想定されている訳ではない。
ここで思考の自由度という、新しい尺度を考えてみよう。
認識領域について
認識領域とは、認識に関係する様々な構成要素から成立する空間である。
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知覚情報:視覚、聴覚、触覚、身体感覚など
言葉:
知識:
記憶:
想像
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思考の自由度――遷移度/明瞭度
思考の自由さについて、思考の自由度という尺度を考える。
思考の自由度とは、自覚的に認識の変容を起こす可能性が高いことやその能力を意味するものである。
思考の自由度は、次のように地理学的あるいは光学的なモデルによって理解/解釈できる。
モチーフ――地理学的/光学的な
認識の状態及び変容のプロセスは、地理学的/光学的なモデルやアナロジーによって理解・解釈されるものである。このモチーフは、本書で多用されることになる。
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地理学的な尺度――遷移度、あるいは遷移性
光学的な尺度 ――明瞭度、あるいは明瞭性
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※補足;
ただし、どちらの概念も単純に数値化できる量的な概念ではない。
※遷移度と明瞭度の関係性
この2つは同じ出来事の読み替え/相互的なものでもある。
1.同義性(パラレル性?)
2.相互性
地理学的な尺度――遷移度
遷移とは、図式的には、認識が未知の領域から既知の領域へ移動することをいう。
遷移とは、認識領域Rにおいて、二つの領域の間(既知の領域 ⇄ 未知の領域)を何かが移動することをいう。
この遷移を、地理学的なシフトと呼ぶことができる。
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1.認識
2.概念の集合
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遷移とは、認識および概念の集合が、地理学的に未知の領域から既知の領域にシフトすることである。
新しい認識の遷移、つまり新しい認識を獲得することとは、
未知の領域への思考の冒険による発見と、同義である。
※参照;地理学的なモチーフ
フロンティアという言葉は、未だ十分に解明・探求されていないような研究テーマ・領域という意味で使用されることがある。
これは、人間の認識を地理学的なモチーフによって表現している典型的な事例である。
事例;
何らかの分野において、画期的なアイディアを誰かが閃いたとしよう。
このアイディアは、この人物の頭の中で閃く以前には、全くその存在を知られていないものであったが、
その意味で、この新しい認識は、図式的に、当初存在していた未知の領域から既知の領域へとシフトしてきたものだと考えられる。
遷移とは、このような既知/未知の領域間での移動のことである。
――遷移度
1.遷移度とは、既知の領域と未知の領域における、認識の配分状態のことである。
2.遷移度とは、概念の集合の配分状態のことである。
――遷移度
認識の変容を起こしうる可能性を持つ要因の分布状態と変容スピードを意味する。
①分布状態、配分関係、比率・割合
②認識領域の過渡的な変容性、その速さ
③無限に多様な概念の集合Gの分布と変容度
光学的な尺度 ――明瞭度
認識の状態及び認識の変容は、光学的なモデルによっても理解することができる。
この光学的なモデルにおいて使用できるのが、明瞭度という考え方である。
明瞭度は、認識の状態や変容のプロセスを、明るい-暗いというグラデーションによって、直感的に把握/表現するための尺度である。
事例;
新しい認識を獲得することは、光によって自分の認識領域が照らされることを意味する。
概念関係式
・概念関係式
概念関係式とは、複数の概念が結び付いて成立した式である。
・概念の特性
一般的に、概念は他なる概念との関係性によって意味が規定される。
人間は、物事についての認識を複数の概念を結び付けることで表現する。
概念関係式は、認識の表現モデルなのである。
概念の集合
概念関係式の各項には、概念の集合から選択された概念を当て嵌めることができる。
構成要素
概念関係式は、①②左辺/右辺の概念、③関係性の概念、④原理・法則の概念によって構成される。
④関係性
概念関係式において、関係性は蝶番のような役割を果たす。
様々な概念関係式を、関係性を中心として束ねることができるのである。
④原理、法則の概念
参照平面
④原理、法則の概念
認識領域、明瞭度
認識領域の明瞭度が高まり、認識の変容が起こると、概念関係式が浮かび上がる。
思考の不自由さ&思い込み/信念/バイアス/パラダイム
思考の自由度――遷移度/明瞭度
思考の自由さについて、思考の自由度という尺度を考える。
思考の自由度とは、自覚的に認識の変容を起こす可能性が高いことやその能力を意味するものである。
思考の自由度は、次のように地理学的あるいは光学的なモデルによって理解/解釈できる。
思い込み論
概念空間論では、思い込みを次のように解釈する。
思い込みとは、次のような認知の状態である。
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1.信念(信じられていること)であり、無意識的である
2.概念空間の動きを固定させ、変遷が起こらない
3.認識領域の遷移度/明瞭度が低いあるいは変化がみられない
※変化の幅が一定の範囲内に維持される
4.認識の変容が起こる可能性が低い
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思い込みを疑うべき理由
概念空間論は、あらゆる思い込みから思考を開放するための体系である。
なぜ、思い込みを疑わなければならないのか?
補足;『哲学原理』ルネ・デカルトの言葉
「一生に一度は、すべてのことを疑うべきである」
概念空間論は、この考えに賛同する。
ただ、思い込みを疑うべきであるのは、デカルトとは異なる理由からである。
思い込みとは、地理学の問題であり、光学の問題として理解される必要がある。
これは地理学的なモデル、光学的なモデルの両方で理解されなければならない。
思い込みを疑うことは、地理学的な冒険に出掛けることを肯定することであり、その可能性を広げること。
思い込みを疑うことは、自分自身を、光によって照らすこと。光を受容すること。
思い込みを疑わないことは、冒険の可能性を見落とすことであり、光によって照らすことを拒絶すること。
信念論
バイアス
パラダイム
本章の補足
認識平面(R平面)
R平面は、概念空間論の主要な概念群を統一的かつ直感的に扱うための図式的な平面である。
認識平面は、基本的には、概念空間論における副次的な概念である。
概念空間論の諸概念を絵筆や絵の具とするなら、R平面はキャンバスであるといえる。
概念空間論の統一的使用法
概念空間論には、主要な概念として、参照平面、K領域/U領域、明瞭度、概念関係式、未概念法などがある。
概念空間論は、理論的には概念の集合を扱う体系的な枠組みであり、実践的には思考様式(思考ツール)である。
これらの概念は、単独で使用することもできるが、体系的な思考の枠組みとして用いることができる。
認識平面Rは、この思考様式を、その基盤の上で自由に展開するための便宜的な場である。
R平面と認識平面
認識平面=R平面は、認識領域の外部に余白を加え、無限に範囲を拡張したものである。
認識領域を平面に落とし込み、さらに他の概念群をその上で展開できるように拡張した概念である。
共通の前提②各概念の平面上の範囲の比較
認識平面R、認識領域、K領域/U領域には、明確な構造的な関係性がある。
この3つの概念は、すべて平面上における認識の範囲を表す概念であり、大きさ(面積)に違いがある。
この関係性を表現したのが、次の式である。
・認識平面R≧認識領域=K領域+U領域
認識平面Rは、認識領域をさらに拡張した概念で、無限の広がりを持つ平面である。
認識領域は、認識平面R上に投影された空間的な広がりである。
認識領域は、K領域とU領域に区分される。そのため、次のような関係性がある。
認識領域=K領域+U領域
認識平面Rを用いる2つのケース(積極的)
認識平面Rを積極的に用いるシーンとしては、次の2つのケースを挙げられる。
ケース①連動した使い方を視覚的に把握するケース
ケース②複数の認識領域を平面上に並置して考えたいケース
では、特に有用である。
概念としての意義
認識平面Rは、他の概念と異なり、消極的な理由で導入された概念である。
概念空間論の諸概念の関係は難しい➡直感的な把握が必要➡平面上へ
概念空間論は、実践的な意味では思考様式である。
この思考様式を使いこなすためには、身体化されている必要がある。
そのためには、抽象的で概念的な理解だけでなく、直感的な理解が必要になる。
ただ、概念空間論の諸概念の関係性は、文章のみでは十全に表現することが難しく、理解することも困難になる。
そこで、諸概念の関係性を統一的かつ直感的に把握するため、説明のために導入された概念である。
※補足;認識領域=認識平面Rとする場合
ただし、「認識領域」という名称で、認識平面Rと同様の使用方法をすることもある。
この場合、認識領域は無限の広がりを持つと想定され、その領域内にK領域/U領域が部分的に投影される。
このときは次のような関係性になる。
認識領域≧K領域+U領域
※認識領域=K領域+U領域+余白
概念空間論では、概念の集合を扱うとき、しばしば認識主体や認識水準を想定する。
このK領域/U領域という概念に少し手を加えて作成したライトエリア/ダークエリアという概念があります。 こちらの概念と一緒に学んで頂くと、使い方が分かりやすいかもしれません。 ライトエリア ライトエリアとは、詳細な情報&視覚的なイメージがあり、 明瞭でハッキリと認識できる領域を意味します。既に光によって照らされている、 明るい領域のことであると言えます。 そのため、視覚的なK領域、知識上のK領域に重ね合わせられます。 ダークエリア ダークエリアとは、 詳細な情報&視覚的なイメージがなく、 不明瞭でハッキリと認識できない領域を意味します。未だ光によって照らされていない、 暗い領域のことです。 このライトエリアとダークエリアの2つの領域の一番大きな違いは、明瞭度です。 ダークエリアは光が当たっていないために暗く、明瞭度が低い領域なのですが、新しい情報や視覚的なイメージを集めることで明瞭度を高め、ライトエリアに塗り替えていくことができます。 そのため、視覚的なU領域、知識上のU領域に重ね合わせられます。


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