ある泥棒のエピソード

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ある日の昼下がりのこと…。

 

名も知られぬ辺境の地に、一群の人々が集い、小さな集会が開かれようとしていた。

 

秘密裏に、しかし巨大な規模で進行する重要な計画のために、世界中から招聘された者たちだった。

 

この中には、様々な学問の権威、研究者、科学者たちが含まれていた。

 

彼らは円卓を囲み、地上における最も解決が難しい幾つかの問題について、専門的な立場から意見を述べ合い、解決策を話し合っていた。

 

・・・

 

数刻ほどが経過し、議論が終局に近づいた頃、俄かに異変が起こった。

 

窓から、音もなく一人の男が現れたのだった。

 

学者たちは慄然とし、息をのんだ。

 

なぜなら、この秘された土地は、決して妨害が入らぬようにという彼らの希望により選ばれた、誰も知ることの叶わないはずの場所だったのだから。

 

学者の一人が、男に問いかけた。

 

「…おまえは、何者だ」

 

男は、何も答えなかった。

 

一人が、男の姿から推測するに、強盗の類ではないかといった。

 

ところが、彼は拳銃も鞄も持っていなかった。

 

窓から風が吹き込み、カーテンが静かに揺れた。

 

すると何か抗し難い力によって、学者たちは身動きが取れなくなってしまった。

 

男は危害を加える様子はなかったが、一人ずつ傍に近付くと、ほんのわずかな間、彼らの額に手を翳した。

 

そして、ゆっくりと部屋を一巡すると、何も言わず立ち去ったのだった。

 

彼らは何が起きたのか、状況を整理しようとした。

 

…束の間、彼らのなかの一人が膝から崩れ落ち、嗚咽を漏らした。

 

全員が、その場に立ち尽くしたまま、互いに視線を交わした。

 

事態を把握した者はみな、両手から希望が零れ落ちたように、顔を歪ませた。

 

彼らは、決して奪われてはならないものを失ったことに気づいた。

 

男は、学者たちの概念を、すべて奪い去ってしまったのだった。

 

 

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